景気低迷の真犯人は、技術革新の停滞か? 米国を賑わすイノベーション論争

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iPhoneなどの新製品は人間の能力向上に役立っているのか――そんな疑問の声が、一部で浮上している(撮影:今井康一)

わずか1年の景気低迷は来年だけでなく、今後10年間にも及びそうだという議論が巻き起こっている。はたして世界的な金融危機は先進国にとって、厳しかったが一時的な後退にすぎなかったのか、それとも長期にわたる沈滞の始まりなのだろうか。

最近、起業家でベンチャー投資家のピーター・ティエル氏や、元チェス世界チャンピオンのガルリ・カスパロフ氏など複数の思想家の間で、景気減速についてかなりラジカルな解釈が支持され始めている。近く出版予定の本の中で彼らは、先進国の経済停滞は金融危機だけが原因ではなく、技術やイノベーションの長期的低迷こそが元凶だと指摘している。つまり、イノベーションを生み出すような政策の見直しが行われないかぎり、生産性の回復を維持することは難しい、というわけである。

さらに、経済学者のロバート・ゴードン氏は産業革命と技術革新が続いている250年間は、人類における停滞の規則性の例外となる可能性があると指摘する。実際、近年の技術革新は電気や水道、内燃機関といった1世紀以上前の技術的ブレークスルーと比べて大きく見劣りがするとしている。

私は先頃、このイノベーションの停滞説についてティエル氏やカスパロフ氏、暗号化技術のパイオニアであるマーク・シャトルワース氏と英オックスフォード大学で議論する機会を得た。その場でカスパロフ氏は「アイフォーン5」のような製品がわれわれ自身の能力向上にどれだけ貢献しているのかという疑問を投げかけたうえで、今日のコンピューティング技術の素地となっているのは1970年代に開発されたものだと主張した。また、ティエル氏は金融緩和政策や財政刺激策は、場合によってはより景気を悪化させる可能性があると指摘した。

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