商売をするものの使命はなにか。この世から貧をなくすことである、世の中を豊かにすることである。物の面から人びとを救うことである――その基本の考え方、松下幸之助の悟りはやがていわゆる「水道哲学」へと発展していく。産業人という点に絞って言えば、「いい物を安くたくさん」というのは松下にとって最も根幹となる基本理念の1つであった。
聖なる経営とは「水道の水」である
聖なる経営とはなにか。本当の経営とはなにか。そうだ、水道の水だ。通りすがりの人が水道の栓をひねって存分に水を飲んだとしても、その無作法を咎(とが)めることはあっても、水そのものを盗ったことは咎めない。なぜだろうか。それは価格があるにもかかわらず、その量があまりに豊富だからである。生産者の使命は、貧をなくすために、貴重なる生活物資を水道の水のごとく無尽蔵たらしめることである。どれほど貴重なものでも、量を多くして無代に等しい価格をもって提供することにある。
「いわば水道の水のように、いい物を安くたくさんつくるということは、いつの時代でも大事なことやで」
この考え方は、松下自身は一度もそう表現していないが、世間には「水道哲学」という呼称で広まった。
さて、ときおり表面的な理解だけで水道哲学を批判する人が現れるから、少し補足をしておこう。日本は物が豊かになったから、もうそのようなことを考えなくてもいいのではないかという人がいる。
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