松下幸之助の「水道哲学」は現代にも有効だ

商売をする者の使命とはなにか

しかし「いい物」というのは、品質や性能がいいということだけではない。材料は本当にいい物なのか。自然や人間の生存を脅かす材料では、とてもいい物とはいえない。自然を壊すような、人を害するような材料を、もし使っているとするならば、いくら性能がいいといっても、それは「いい物」であるわけがない。

ひとつの製品が十分に役目を果たして捨てられるときまで、人間や自然に迷惑をかけない、そういう製品がいい物である。環境問題が重要な課題であるこれからの時代には、いい物をつくることがますます必要とされている。

「安く」ということも、まだまだ追求が必要であろう。本当に安いのか、なお工夫の余地はないのか。

先進国と言われているところはほんの一握り

目を世界に転ずれば、先進国と言われているところはほんの一握りである。8割、9割の人たちが、いまなお貧しい生活をしている。わが国の状態だけを見て、もう十分に安いと考えたとすれば、それは豊かな国の傲慢である。

また「たくさん」つくらなければということも、同じである。物が不足して困っている国がいっぱいある。わが国だけを見てものを考える時代ではない。世界全体、人類全体を見てものを考えなければならない時代になってきている。いい物を安くたくさんつくるのが生産者の使命だという考え方は、これから21世紀に向けて、ますます必要になってくるだろう。

あるいは90年代に入ると、水道哲学を日本的経営であるとして、短絡的に結びつけて批判した人びとがいた。

しかし、そもそもこの考え方は、世界中の経営者、産業人が、そして人類が求め続けてきたものである。この考え方がなければ、今日の科学の発展も技術の発展も、したがって人びとの幸福もなかったであろう。

というのも、考えてみれば「いい物」というコンセプトと、「安く」というコンセプトと、「たくさん」というコンセプトは相矛盾する考え方である。「いい物」をつくろうとすれば手間もかかりコストも高くなる。それを「たくさん」つくるというのは、不可能に近い至難の業(わざ)である。

その不可能を可能にすべく、科学者、技術者、産業人が必死の努力をしたからこそ、今日の発展をみることができた。「いい物を安くたくさん」つくっていくということが、人間の使命であると、無意識のうちに人間は感じとってきたからこそ、技術革新が次々と起こってきたのである。

そして松下はむしろ素直に、その真理を言葉に置き換えたのだ、と考えてもいいと思う。

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