松下幸之助は「宗教」をみて「経営」を悟った どうして宗教は盛大で力強いのか

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それにもかかわらず、こちらのほうは倒産したり、カネ儲けだといって軽蔑されたりする。なぜだろうか。帰りの電車の中でいろいろ考えた末、はっと気がついた。

「それは商売に使命感がないからや。宗教には人間を救うという大きな使命感がある。それや、それなんやと思った。いまのままではいくら熱心に経営を行っていても、力強い行動は行われない。

それでは商売をするものの使命はなにか。貧をなくすこと、世の中を豊かにすること、貧をなくして人びとを救うことや。この世から貧をなくすことがわしらの使命なんや。そこで悟ったんやな、わしなりに。そしてこれがわしの経営を進める基本の考え方になった。そういうことがあって、わしは自分の事業を一段と力強く進めることができるようになったんや」

悩み考え続けなければ、悟ることもできない

おそらくそれまで悩み、考え続けていたことによって、いくつかの断片的な考え方が松下の頭の中にできあがっていたのだろう。池に氷が張るときは、小さな氷片がいくつもできたあと、それらが一瞬にしてくっつきあい池全体に氷が張るという。その宗教の本部を見たことが、使命感を悟るうえでの、最後のひと押しになったのだと思われる。悩み考え続けることがなければ、悟ることもできないのだ。

方針をつくるということは、難しいことである。ましてやその背景となる使命感を悟ることの困難さは、もはや言葉で説明することは不可能かもしれない。松下幸之助といえども、悩みに悩み抜き、考えに考え、考え抜いてようやく基本の考え方をつくりだした。

そのやり方に学ぶしかない。大勢の社員の命運がかかっているのである。経営者は、いわば命がけで考えて悟らなければならない。いかに難しくとも、使命感を自覚し、方針を決めないことには、経営を力強く進めていくことは決してできないのであるから。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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