危機的状況に陥ったシャープと銀行の思惑
このように、シャープは急速に業績を悪化させていますから、資金繰りも厳しくなってきています。こういった危機時に真っ先にやらなければならないことは、手元流動性(すぐに使える現預金など)を確保することです。ですから、バランスシートにある「現金及び預金」の推移を見ますと、平成24年3月末に1952億円あったのが、半年後の同年9月末には2211億円と以前より若干増やしているのです。
重要なことですが、会社は、赤字になっても債務超過になっても潰れません。借金が返せなくなった時に潰れるのです。したがって、経営危機時にあてになるのは、自社でコントロールできるお金しかありませんから、このような場合にまずやらなければならないことは、できるだけ手元流動性を確保しようとすることです。
一般的に、シャープのような大企業では月商の1カ月分強の現預金を持っていると安全だと言われています。シャープの月商を売上高から計算しますと1840億円になりますから、9月末時点で1.2カ月分の現預金を確保したということです。
では、この四半期も利益を出していないシャープは、どのようにして現預金を工面したのでしょうか。シャープのバランスシートを見ると、その答えは「短期借入金」です。平成23年3月末にはわずか1280億円しかなかったのが、平成24年3月末には2123億円、同年9月末には5112億円まで増やしているのです。つまり、銀行から借金をして手元流動性を増やしたということです。
さらに負債について細かく見ていきますと、銀行側の思惑が読み取れます。平成24年9月末の固定負債を見ますと、「新株予約券付社債」がゼロになっていますから、社債が償還されたのだと考えられます。
それも、短期負債で賄ったのです。というのは、短期負債が増えている一方で、長期負債は減少しているからです。「長期借入金」を見ますと、平成23年3月期は1256億円、平成24年3月末は1129億円、そして同年9月末には994億円と減ってきています。
一般的に、社債などは長期で借りているお金ですから、長期で再びリファイナンスするのが常套です。しかし、シャープのような状況では、普通社債や新株予約券付き社債も出せません。それでは、銀行から長期で資金を借り入れられるかと言えば、銀行もシャープの破綻を危惧していますから、長期で融資をしにくいのです。
つまり、銀行の本音としては、シャープに長期で融資をするのは怖いのですが、破綻されると困りますから、当面の資金繰りと社債の償還に関しては全部短期で貸すことにしよう、ということなのです。言い方を換えますと、現時点では、もはやシャープの生命線は銀行に握られてしまったということです。
ですから、もし今、銀行が「もうシャープに融資をしません」と言ったら、シャープは潰れてしまいます。もちろん、今後シャープの収益が回復しキャッシュフローが改善すれば、この状況からは抜けられますが、現時点では、それがいつなのかは不明確です。
このように、シャープが生き残るか否かは、現状では銀行がどう判断するかに懸かっているのです。出資交渉を行っている相手企業が、結局どのくらいシャープに資金を入れてくれるのか。リストラを含め、どれだけコスト削減ができるのか。シャープの持つ世界最先端技術が、将来的に需要があるのかどうか。そういったことを考えて、銀行は融資を続けたほうが良いのか否かを判断するのです。
そういった中で、シャープは黒字転換していくことができるのでしょうか。シャープは2013年3月期連結決算の下期には営業黒字(通期では赤字)を確保する見通しを示していますが、実際に計画通りに進むかは分かりません。先行きを見極めるためには、2012年第3四半期の決算に注目することが重要です。
もう一つ、気になることがあります。最近、シャープがテレビCMを増やしているのです。業績が急激に悪化した時期は、太陽光パネル以外のテレビCMは見かけなくなりました(太陽光パネルは、公共投資の増加によって需要が見込まれていたためにテレビCMを流していたのでしょう)。
しかし、最近はスマートフォンやIGZO液晶のCMなどが増えているのです。テレビCMはお金がかかりますから、シャープの業績が広告費に回せるほど回復してきたという見方もできますし、単純に広告に下期の業績の命運をかけているという可能性も否定はできません。ただ、シャープは大リストラを行いましたから、その分、収益が改善している可能性はあるでしょう。いずれにしろ、2012年第3四半期の決算にはおおいに注目しなければなりません。
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