が、アップルの躍進により、この前提が様変わりした。アップルはiPod、iPhone、iPad、そしてマックにより、ハード、ソフト、サービス、操作性を統合し、パッケージまでを含めてきっちり1つのコンセプトにまとめあげた。
これで世界は変わった。神の言いつけを守らずに善悪の知識の実(りんご)をかじり、知恵を得てしまったアダムとイブのようなものだ。人類は、普段使っているパソコンを見て、ため息をつくようになった。「不具合が頻発しても笑って許す」というウィンドウズの作法が、いかにおかしなものであるかを知ってしまった。
マイクロソフトやその株主にとってのこれまでの世界観もガラガラと崩れた。自社が驚異の営業利益率をたたき出す理由はソフトウエアに特化し、ハードをOEMに任せているからだと思い込んでいた。しかし、アップルはハードウエアをつくっている。それでいて30%以上の純利益率を誇るのだ。
このままでは大ピンチだ。アップルと同様、ハード、ソフト、サービスを一体でマイクロソフトがデザインしてユーザー体験を完全にコントロールしなければ、シェアを失う一方になってしまう。そのために直営店の経営も始めたし、ジャンクソフトの除去も始めた。
そして純正ハードにも乗り出した。第1弾が10月発売のタブレット端末「サーフェス(Surface)」だ。今後、スマートフォン、パソコン本体など、さまざまなハードウエアを出していくことは間違いない。年間95億ドルも研究開発に注いでいるマイクロソフトは技術力でも圧倒的な強みを持つようになっており、もはやハードを作るためにOEMの知恵を借りる必要もない。今後、OEMの生存圏は一気に狭くなっていく。
イノベーションをリードした日本のOEM
ジャンク扱いを受けるとは、なんとも惨めだ。しかし、ここからが温故知新。かつてマイクロソフトはとてつもなくOEMを重視していたのである。中でも、重視していたのが日本のOEMである。
無理もない。20年前までは日本はハイテク技術が湧き出る場所だったからだ。マウスを生み出したアルプス電気、音源チップを開発したヤマハ、液晶のセイコー、シャープ、3.5インチフロッピーディスクを開発したソニー、独自アーキテクチャのPC-9800シリーズで日本国内90%以上のシェアを誇ったNEC、初のHDD塔載ラップトップパソコンを生み出した東芝、DEC(コンパックに吸収され現在はヒューレット・パッカード)などのノートパソコンを受託生産していたシチズン時計、カラーマネジメントのキヤノン――。
例を挙げればキリがない。日本はパソコンとその構成部品の中心地だったのである。
現在CEOを務めるスティーブ・バルマーは93年に2カ月間、東京・広尾のマンションを借りて家族とともに住み込み、日本のOEMと深い信頼関係を育んだ。そして日本の革新的デバイスをパソコンに組み込み、パソコンを急激に進化させた。その結実が、ウィンドウズ95以降の大躍進を生んだのだ(何があったのかは不明だが、バルマー退去後の部屋はカーテンがボロボロに破れていたそうだ)。
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