詳しくは、次回以降、お話ししていきますが、このあたりは、マーケティングに関わる方たちの参考にもしていただけるのではないかと思います。
2つめは、「サードプレイス」としての、バーの使い方について。
わたし自身も、家庭を持ちながら勤め人をしていた時期があります。ストレスがたまったときや、逆に大仕事にケリがついて一段落したときなど、職場でもない、住まいでもない、第3の場所が必要です。○○社の誰々でもなく、○○家のご主人でもない、素の自分に帰って、ほっとひと息つく場所が。
この点で、「バー」の存在意義があると思っています。「バー」の扉を開けば、そこには会社の人間関係のような、しがらみもありません。「自分自身」というブランドのみ背負って周囲と対峙し、自分と向き合えるのです。
ただ、残念なことに、若い人たちを中心に、「バー」というと、堅苦しいルールのある、敷居の高い場所になっていることは確かなようです。
ドレスコードやオーダーの仕方などがあるのではないか、そう身構えてしまっていて、お酒を楽しむという本来の目的にたどりつけないでいるのですね。
この点に関しては、いくつかのちょっとしたことに気をつけさえすれば、とてもリラックスできてリフレッシュできる、行きつけの店をもつことができるという事をお話ししていきますね。
そして、この、「行きつけの店」がある、ということは、現代人にとって、心の健康を保つという点で、とても意味のあることと感じます。
また、バーにはさまざまな歴史があり、現在のように、「バー=カクテルを飲むところ」になったのはここ100年ぐらいのことで、バーの語源についてもいろいろな説がありますので、せっかくなので、そのあたりの知識もご案内していきたいと思います。
3つめは、ずばり、「酒」について、です。
実は、この連載のお話をいただくきっかけになったのは、1冊の本でした。
冒頭の自己紹介で、「割らない酒のバー」と書きましたので、「え?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
そうなんです。うちのバーのメニューには、カクテルがないんです。
「バーなのに?」
はい。
酒は大人の教養である。
実は、バーの定義はとても曖昧で、カフェバー、ワインバー、焼酎バーに、最近では日本酒バーまで幅広くあります。従来のように、ひとつの店でいろいろな洋酒が飲める酒場としてのバーだけではなく、専門分野にこだわったバーがどんどん増えてきています。
なので、従来の(100年前からの)経験豊富なバーテンダーがカクテルづくりに腕をふるうバーは、「オーセンティックバー」とよばれ、区別されています。
ですので、あえて、現在のバーの定義をまとめるとすると、カウンターがあり(バーの歴史をたどっても、これははずせないのです。詳しくは次回ご説明しますね)、何らかの酒あるいはそれに準ずるものを、ショットで注文できる、といったところでしょうか。
わたしが、カクテルをメニューとして扱っていないのは、そもそも酒というものは、それぞれの国や民族の固有の文化であり、長い歴史の中で、美味しい酒を飲んでもらいたいとの、作り手の創意工夫、切磋琢磨からうまれたものなんですよね。
それを味の変わるもので割るのはいかにももったいないし、作り手に失礼ではないか、と思っているからなんです。
もちろん、世の中には、カクテルは断固として存在しますし、その創造性と多様さは、芸術のようでもあります。カクテル用のスピリッツや副原料もさまざまで、お好きな方にはとても楽しい時代だと思います。
知って飲む酒は旨い
ただ、わたしとしては、やはり、作り手の思いというか、酒に対する思想、哲学をそのまま味わう飲み方、「割らない酒」にこだわりたい。それに、東京にはこんなにたくさんのバーがあるのだから、1軒ぐらい、そんな偏屈な店があってもいいのではないか。
そんな思いで、10年もバーのマスターをやってますと、お客さまもやはり、その考え方に共感してくださる方が通ってくださるようになりました。割らない酒を好む方というのは、ほんとうにお酒が好きな人たちなんですね。
しょっちゅう話題に出るのが、「若者の酒離れなんて言われてるけど、こんなうまいものを知らないで一生過ごすのは、いかにももったいない」ということ。
そんな会話が続く中で、気がついたことがひとつ、ありました。
それは、「知らないから飲まないのではないか?」ということです。ビールひとつとっても、世界にはいろんな種類がありますし、ワインだって、決して居酒屋の飲み放題コースのワインが一般的ではありません。
折しも、今年は、うちのバーが10周年ということもあり、ならばその記念と社会へのひとつの貢献として、と、常連さんの中から、デザイナーやカメラマン、イラストレーター、プログラマーなど、それぞれ専門分野をもつ方たちが手を上げてくださり、この4月に、お酒とバーの入門書、「下北沢 バー・ホリーのお酒の本」を上梓しました。
この連載では、そのときにまとめたお酒の種類や歴史、製法なども、いろいろなエピソードをまじえて、お話ししていきたいと思います。
まずは、次回、ウィスキーについて。ウィスキーの生みの親は、かのアリストテレスなんですよ。みなさま、ご存知でした?
イラスト:青野 達人
(※第2回は、11月30日(金)掲載予定です)
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