あっさりと値上げ案は拒否されてしまった。しかたがない。しかし、なんとか経営基盤を確実なものにしたいと考えていた私は、それならば僅かではあるが他の手持ちカード、たとえば書籍の発刊を大幅に拡大し、そこで利益をあげようと考えた。そのかわりに『PHP』誌の収支は赤字のままでいこうと思った。
そこで私は、PHP研究所の収支決算はトータルでなんとか黒字にするから、『PHP』誌は赤字でも許してもらおう、そのことを承認してもらおうと話をしたのである。
その結果が、お前は経営者として失格だ、という烈火のごとき叱責であった。
どんぶり勘定になってしまう
「そんな考え方では経営がどんぶり勘定になってしまうやないか!そういう考え方をよしとすれば、他の事業場の人たちも『会社全体として黒字になるのだから、自分のところひとつぐらい、赤字を出しても許されるだろう』と思うようになる。そしてついには全体があっという間に赤字になってしまう。そやろ。けどな、会社の中の、仕事の単位一つ一つで黒字にしていけば、全体として黒字になる。『PHP』誌が赤字なら、黒字にしたらいいがな」
値上げも許されず、赤字を出すことも許されず、松下の厳しい言葉を身体全体で受け止めながら、これはなんとかしなければならないと思うしかなかった。
不思議なもので、赤字は許されないという前提で工夫をすれば、やはりその道は見つかる。仕事の仕方を変えていったり、紙の質を色目は変わらないけれども少しでも安いものに替えていく。あるいは表紙の絵でも、お借りするだけで何十万円もということになるから、趣旨をお話ししてなんとか安くしていただく。細かなことを積み重ねていくと、やがて『PHP』誌はわずかではあるが、黒字に転換させることができた。その利益を資金として、より活動を広げていくことも可能になった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら