この結果、実物市場への融資は、金融商品投資との比較で、相対的にさらに不利になる。だから融資は増えない。それどころか、企業(事業会社)まで、設備投資などを止めて、金融投資に資金を回す。なぜなら、設備投資用の調達金利は下がらず、実体経済が伸びるわけではないから、実物投資の期待収益率も上がらないから、実物投資をやめて証券投資、金融商品投資あるいはそれに近い投資に資金を移す。実物投資をするとしても国内ではなく海外となり、それもM&Aなどで、実質的に金融投資に近いものが増える。
この結果、日本経済における実需は全く増えない。それどころか、投資はむしろ実物から金融商品への投資へ移るため、企業の実物投資にはマイナスである可能性もある。実需は減るのだ。したがって、量的緩和をすればするほど、金融商品は値上がりし、実物市場のフロー、実需は減り、実体経済の景気は悪くなる。
そして、実は、これがケインズの一般理論のエッセンスであり、流動性のわな(ケインズはこの言葉を使っていないから、本人の言葉なら「流動性選好」)の本質なのである。ケインズは、債券の金利が下限に張り付いたら、その後債券は値上がりすることはなく、値下がりリスクしかないから、どんなに資金が市場に流入しても、それは債券に向かわず、貨幣、現金に留まり、次の投資チャンスを狙うだけとなる。流動性選好が無限に高まる、ということを言った。この債券と貨幣(キャッシュ)の関係を、実物投資と金融商品投資の関係に置き換えれば、全く同じことだ。
だから、ケインズにとっては、金融政策ではなく、財政政策による実需の喚起が必要なのであり、直接、実体経済の需要を生み出し、失業を減らし、所得を増やさないといけないのだ。
そして、我々には、量的緩和ではなく、実物投資を増やすための政策が必要なのであり、しかし、財政に余力がないのであれば、選択肢のない中、苦肉の策を編み出さなければならない。
バーナンキ議長もだからこそ国債ではなく、MBS(資産担保証券)を買い、金融商品を買ったとしても、それが実需を生み出すようなものに絞ってやっている。日銀の成長基盤融資も、今回の企業融資をする金融機関への日銀の無限資金供給も、同じく実需への資金の流れを促そうとする苦肉の策なのだ。
日銀が10月末の政策決定会合で打ち出したで「貸出支援基金」も、証券市場で証券を買うのではなく、実体経済に新規に資金が流入することを促すことを狙ったもので、この議論の流れに沿ったものだ。
無邪気に証券を買うだけの量的緩和は、日本全体への景気には明らかにマイナスなのである。
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