日銀引き受けで国債を発行したらどうなるか
日銀の引き受けで国債を発行した場合、「市中消化量は変化しないのだから、『それだけで』国債価格が下落することはないのでは」という疑問をよく聞く。だが、このときは、民間保有者が売りに回るため、やはり下落する。引き受けは、売りのサインになり、投機的な売りも入って仕掛けとなる。日銀が直接引き受けだけを行い、市場の国債を放置すれば、ますます売り浴びせられる。
一方、日銀が市場の国債も買い支えた場合、政策の透明性から、買い入れ額に上限を設けた場合は、その上限に近づかせるために、とことん売り浴びせることになる。したがって、無制限とせざるをえないが、そうなると、リスク回避のために、すべての国債が売りに回る。
日銀は行動が透明性などにより縛られており、政治と市場の両方の圧力と戦わないといけない。そのために、売買戦略の自由度が制限され、投機家に思うようにやられてしまう。これが、ジョージ・ソロスのポンド攻撃(1992年)のときに起きたことであり、アジア通貨危機でも同じで、つねに通貨危機では起こってきたことだ。
実は、この場合、日本国債の暴落を決定づけるのは円の暴落だ。危機においては、国債と通貨は一体となる。円安が進行すると思えば、金融機関もすべての日本国債を米国国債に振り替えるインセンティブがある。このときに、日本は小国となる。つまり、米国債があるために、資金の逃避先があることで、通貨安、債券安、株安のトリプル安が実現する。
この意味で、欧州危機よりも事態は深刻化する。なぜなら、ギリシャやスペインが倒れても、ドイツ、フランスが倒れなければ、ユーロはとことん暴落するわけではない。だから、国債だけ買い支えれば何とかなるのだ。円安が急激に進行した場合には、それができない。新興国や小国の金融危機とまったく同じパターンをとることになるだろう。
通貨を持つからこそ危機が拡大する可能性
したがって、国内に資金需要がないから、日銀の国債購入により通貨が供給されたとしても、市場の通貨需要に変化がなければ、結局、日銀当座預金に積み上がるだけなのではないか、という疑問は当を得ない。2001年の量的緩和のときとは状況が違い、国債危機であるから、資金は逃避し、通貨には海外通貨もあり、資産には海外資産もあるから、いわゆる日本売りが起こる。97年から98年の金融危機が規模を拡大して再現されることになる。
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