佐藤優(下)「歴史と国際政治の教養を磨け」 あなたの会社の混乱と、国際政治は関連している
次の大混乱は16世紀。それを引き起こしたのは、スペインとポルトガルの世界制覇だ。ポルトガル人が日本に到達して、鉄砲を持ってくると同時に、キリスト教というグローバル基準の宗教を持ってきた。これに対してどう対応するかで国が割れた。
織田信長がグローバルな流れに入っていこうとしたのに対して、明智光秀、豊臣秀吉、徳川家康らは天皇との関係を重視し、キリスト教に対してネガティブな態度をとった。鉄砲などの技術的なものは取り入れる一方で、キリスト教(カトリシズム)というドクトリンは取り入れなかった。そして鎖国の方向へ向かっていった。
こうして江戸時代の安定した状況が続いたが、幕末に再び混乱が生じた。その背景にあったのは、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、オランダによる帝国主義だ。こうした国々が、清帝国の衰えによって生まれた空白を狙い、東アジアでも露骨に植民地獲得に走り始めた。
グローバル化の圧力によって、アウタルキー(自給自足の経済)を維持できなくなった日本は、新しいシステムへの適応を目指した。そして、近代化に成功した日本には、憲法ができ、普通選挙ができ、2大政党制までできた。
それが1930年代になって再び混乱する。原因はナチスの台頭だ。ナチスやイタリアのファシズムは、これまでの国際法秩序を一方的に覆そうとして、日本もその流れに乗ろうとした。
帝国として再編する中国
つまり、歴史を振り返ってもわかるように、日本に大きな混乱が起きるときには、必ず世界秩序の大きな変化が起きている。そして今起きている大変化には、2つの震源地がある。
1カ所は中国だ。現在の中国は、帝国として再編をすると同時に、民族形成(ネーション・ビルディング)を始めている。この2つが同時進行するのは、かつてなかった形態だ。強いて言えば、ハプスブルク帝国に似ている。
これまでの中国は、共産党の中央委員会に対して忠誠を誓っていればいいという、プレモダンな帝国だった。均質なネーションではなかったし、農民が中心になって動かない状態にあった。当時は、文字言語を通じてのコミュニケーションはできたけれども、中国人同士でも口語では意思疎通が必ずしもできなかった。
その状況が産業化によって変わった。