佐藤優(下)「歴史と国際政治の教養を磨け」

あなたの会社の混乱と、国際政治は関連している

私が重要だと思うのは、シェールガスの開発だ。シェールガスが完全に確保できるようになれば、アメリカは2030年代にエネルギーの輸出国になるだろう。そうなった場合、もしかしたら新しいアメリカの時代が来るかもしれない。それは世界帝国としてのアメリカではなくて、モンロー主義(孤立主義)への回帰かもしれない。

これまで、アメリカが世界帝国を目指して、中東まで出掛けていたったのは、エネルギーを確保しなければいけなかったからだ。もし自力でエネルギーを確保できるようになれば、「国内の成長を優先したほうがいい」「無理をして人に嫌われてまで外国に出てく必要はない」というふうになるかもしれない。

そうなったとき、アメリカの勢力圏が南北アメリカに留まるのか、大西洋、太平洋を含めた構造になるのか、あるいは大西洋になるのか、それはわからない。しかし、アメリカも変わっていくことは間違いない。

エリートは感情に流されてはいけない

そうした変化があるにもかかわらず、日本ではいまだに詐術が横行している。たとえば、日本政府もマスメディアも「尖閣諸島は日米安保条約5条の適用範囲だから、中国が攻めてきても米軍が守ってくれる」という雰囲気を醸し出そうとしている。

しかし、実際に安保条約の5条を読んでみればわかるが、米国が自動的に介入するわけではない。第5条には、「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」という制約が付されている。米国憲法では、大統領に宣戦布告を行う権利はない。宣戦布告権や軍隊の編成権、歳出権などは、連邦議会に属している。

では、米議会が中国に対して宣戦布告するのか?

それはまったく現実的ではない。だから、もし尖閣諸島をめぐって日中の武力衝突が発生しても、米軍が日本側に立って行動する可能性は低いとみていたほうがいい。

こうした背景から、何となくアメリカは頼りにならないのではないかという形で、感情的な反米が出てくる。こういうのがいちばん危ない。エリートになる人たちは、こうした感情論に流されてはいけない。冷たく現実のメカニズムがどう動いているのかについて勢力均衡的なものの見方をしなければいけない。

こうした思考の訓練は、ビジネスパーソンにも欠かせない。特に歴史や国際政治の教養は必須の教養になる。

歴史というのは近代的な現象であって、複数存在する。だから反米史観も構築できるし、親米史観も構築できる。ただ、うそだけはついてはいけない。歴史に点と線をつないでいくときに、点のないところに点をつくってはいけない。そのルールを守れるかが、複数の歴史観を持つか、陰謀史観、謀略史観に染まるかの違いになってくる。

(撮影:尾形文繁)

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