「変な名前」でヒットを連発するネーミング術 「インドの青鬼」「水曜日のネコ」が、ビール?

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その結果、生まれたのがこれらを組み合わせた「前略 好みなんて聞いてないぜSORRY」だった。「好みなんて聞いてないぜ!」と失礼を言っているが、「前略」とやわらげ、「SORRY」と謝っているから許してほしい――。

製品は大ヒットした。

「水曜日のネコ」

「普通の名前ではいけない」という文化が浸透した結果生まれた「水曜日のネコ」

「すると、次第にチームみんなでネーミングを考えるのが好きになってきたんです。たとえば『水曜日のネコ』。“ホワイトエール”という、小麦を使ったベルギースタイルのビールです。当社はこれを女性向けに仕上げ、周囲に影響を与えるオピニオンリーダーに向け販売しようと考えました。するとチームのメンバーは、オピニオンリーダーの女性が“お酒はフッと気持ちをリセットしたい時に飲む”といった傾向をつかみ、同時に、この層が『アロマ』や『自然』や『猫』が好きだと情報を集めてきたんです」

だが“フッと気持ちをリセットしたい”というコンセプトをそのまま使う社員は誰もいなかった。フッとリセットしたい瞬間と言えば――様々な案が出たが“週の真ん中の水曜日”となった。そして、あり得ない組み合わせを意識し「水曜日のネコ」とした。

もちろん、この製品もヒットした。井手氏は言う。

「僕は、そもそもネーミングセンスがないんです。だから、成功例を研究して、それをみんなに伝えたんです。今は、みんなで何千という案を持ち寄ってみんなで決めています。そのほうが、ひとりで考えるより絶対にいいものができますからね」

会社は、思考回路によって変わる。「エールナンバーワン」から「水曜日のネコ」に至るまでの軌跡は、それを物語る一例ではないか。

(写真提供:ヤッホーブルーイング)

夏目 幸明 経済ジャーナリスト

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なつめ ゆきあき / Yukiaki Natsume

経済ジャーナリスト。早稲田大学卒業後、広告代理店勤務を経て現職。「技術、マーケティング、マネジメントが見えれば企業が見える」を掲げ、ヒット商品の開発者、起業家、大手企業の社長などを精力的に取材。『週刊現代』の「社長の風景」は長期にわたる人気連載になっており、ほか『ダイヤモンドオンライン』の「ヒット商品開発の舞台裏」等も連載。著書は『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』(井手社長の口述を筆記)ほか多数。

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