「変な名前」でヒットを連発するネーミング術 「インドの青鬼」「水曜日のネコ」が、ビール?

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星野前社長が一晩考え抜いた「よなよなエール」

実は缶のデザインも、当時は「ありえない」ものだった。ビールのデザインに黒を多く使うのは、タブー中のタブー。黒ビールだと思われてしまうのだ。また、米国でエールビールの醸造を学んできたブリュワーは「ビンに入れたい」と主張した。米国では「一般的なビールは缶入り、高級クラフトビールはビン入り」が常識だったのだ。

しかし、星野氏はデザインに黒を多用し、容器は缶を選択した。

「今なら私も、その意味がわかります。小さな企業は、現状をフォローしてはいけないのです」

ヤッホーブルーイングは、今でこそクラフトビールの業界では国内トップシェアを誇っている。だが、当時は新興メーカーのひとつにすぎなかった。

「新たに市場に加わった会社が、すでに成立している『市場のルール』に縛られ、そのなかで戦っても勝てるはずがないのです」

「にがにがエール」で絶望

仮に2本のビールがあり、値段もパッケージの印象も同じだったとしよう。片方は有名メーカー、片方は無名メーカーの製品だったとする。ユーザーの多く……いや、100人中100人が、有名メーカー製の「いつものビール」を買うはずだ。

だが、有名メーカーのビールの隣に、多少値段が高いがネーミングもパッケージデザインもこだわりを感じさせるビールがあったとする。すると20人に1人かもしれないが、「どんな味なのかな?」と冒険したくなり、購入するお客さんもいるはずだ。飲むと、明らかに味と香りが違う。すると5人に1人くらいは、高くてあまり売ってもいないビールをわざわざ探し「あった! これがお気に入りなんだ」と言ってくれるようになる――。

すると、100人中1人がリピーターになる。でも、ビールのシェアの1%といえば、巨大なマーケットだ。

「新規参入者は、いわゆる“世の中的に正解”とされていることをやってはいけないんです。むしろ、ネーミングから味からデザインまで、あらゆる場面で新規性が高くなければ相手にもしてもらえません。いまの世界の延長線上で考えず、自社だけが占める市場を創造しなければいけないのです」

彼らは「エールナンバーワン」という現在の市場で勝負せず、あえて「ちょっとユーモラスなネーミングのビール」という自社の市場を創り出したのだった。ただし、井手氏はヤッホーブルーイングの経営を引き継いだあと、自分のネーミングセンスのなさに絶望することになった。

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