「変な名前」でヒットを連発するネーミング術 「インドの青鬼」「水曜日のネコ」が、ビール?
「『よなよなエール』が人気になると、ラインナップの拡充が急がれました。そんな中、僕らはあえて『インディア・ペール・エール』という種類の製品をつくりました。大航海時代、イギリスからインドにビールを運びたい、という需要が生まれたのですが、当時、冷蔵庫などありません。しかしホップには防腐効果があります。そこで、通常の何倍ものホップを入れてビールを造ったのです。香りも苦みも非常に強く、ハマる人はハマる味がします」
この文脈は、新規参入者として正しかった。一般ウケは狙わず、でも100人に1人は見事にハマってくれる“とがった味”の製品を造ろうとしたのだ。だが、当時の井手氏にはネーミング術がなかった。
「最初、僕が考えた名前は“にがにがエール”。デザインは浮世絵でした。メイドインジャパンのビール、というイメージを踏襲したのです。星野からは『なんのひねりもない』とボロクソに言われましたよ(笑)」
星野代表も脱帽「インドの青鬼」
ここから、井手氏と星野氏は、なんと1年もかけ提案とダメ出しを繰り返した。結果、井手氏は「自分は星野の成功パターンに縛られていたのではないか」と気付いた。井手氏が独特のネーミング術を花開かせるのは、ここからだった。
「まず“直接的な表現はよくない”とわかりました。『苦い』など、言いたいことをそのまま言うのでなく、別の何かに託す必要があったんです。仮に『苦い』と言いたいなら、『閻魔大王』とか『鬼』とか『悪魔』とか……」
同時に井手氏は、世の中の売れている商品をベンチマークした。
「僕は星野が言うとおりセンスがない。だから素直に、他社さんから学ぶことにしたんです。いろんな商品を参考にし、このとき役に立ったのは書籍でした。当時、『ホームレス中学生』や『バカの壁』が売れていたんです。そして、このネーミングのどこがいいのかな? とネットで検索しまくると――どうも、普段はセットで語られることがない2つの言葉が合体すると、みんな『何だろう?』と興味を持ってくれるとわかったんです」
なら、何と何を掛け合わそう? くだらないものが、いっぱい思い浮かんできたが、なかに、1つだけ引っかかるものがあった。『インド』と『鬼』の組み合わせだった。
「『インド』という言葉は、製品の歴史的背景から想起しました。『鬼』は苦みの象徴です。組み合わせると、見事に『?』なネーミングができた。皆さん、製品名で『なんだこれ? インドに鬼がいるの?』と思い、説明文を読んでくださるはずです」
ユーザーは、ネーミングやデザインを目にし、直感的に興味を持つ。手にとってもらえた時に初めて「インドに運ばれたビールですよ」「苦いですよ」と説明すればよく、いきなり「にがにが」ではいけなかったのだ。
その後、井手氏はホップの青々しさを伝えるため「鬼」を「青鬼」とした。結果――「インドの青鬼」は大ヒットを記録した。
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