「桜押し」は、ひとりよがり観光戦略の象徴だ アトキンソン氏が考える正しい戦略とは?

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3つめの理由は、「観光客が偏ってしまう」「対象が狭くなる」ということです。

理由3:幅広い魅力発信こそが「観光立国」を支える

日本政府だけではなく、地方自治体が外国人向けに発信している内容を客観的に分析してみると、やはり日本の文化・歴史、そして「桜」「紅葉」というものが圧倒的に多く見られます。最近の日本航空の海外向けPRを例にとっても、和傘、富士山、浅草寺、お城に桜、着物、寿司です。やはりどうしても、歴史・文化の観光に偏ってしまっている印象です。

このような発信をすれば、文化や歴史が好きな外国人には響くでしょう。日本の歴史・文化をひと目見たいという人にもいいでしょう。

しかし、世界の観光客はこのような人ばかりではありませんし、この需要は非常に限られています。たとえば2週間の滞在中に、朝から晩まで文化財をめぐるという人はまずいません。グルメ、ショッピング、スポーツ、アウトドアなど旅行の目的は人それぞれであり、「観光立国」を目指す以上、このような人々へ魅力を伝えることも大事なのです。

幸い、日本は非常に多様性に富んだ観光資源に恵まれています。ビーチ、スキー、サーフィン、スキューバダイビング、その他スポーツ、山登り、川下り、古道散策、農業、乗馬、植物・動物鑑賞、文化財、文化体験、買い物、食事、酒……。これだけ幅広い魅力があるのに、1~2週間程度しか楽しむことができない「桜」に執着するというのは、どう考えても合理的ではありません。PRに多様性を持たせ、より幅広くアピールして、来日する対象を広げていけば、観光ビジョンの目標である2020年に訪日外国人観光客4000万人も実現できるはずです。

魅力をカテゴライズし、統一して発信を

ただ、これらの多様な魅力を個々がバラバラに叫んでも、海外には届きません。しっかりとカテゴリー分けなどの交通整理をしたうえで、国の統一された情報発信のもとで、海外へと届けていくべきです。

私の感覚では、観光の種類を7〜8種類に集約すべきです。国がそれを定めて、理想的なのはPRサイトや観光客用の資料というソフトを作って各地方へ配布していくことです。そして、各地方が観光の種類の枠組みのなかに、地域性のある独自のコンテンツをどんどん入れていって、地方ごとに多様性を見せつつ海外へと発信していくのが、最も合理的だと思っています。

どこの地域のPRを見ても、ホームページを利用しても、全体の骨組みが一緒であれば、外国人観光客側もわかりやすく使えます。ばらつきがないので安心感もあります。また、各自治体が独自に動くと、PRが重複したりするという問題も生まれますので、九州や四国などは全体が共同でPRするのもいいでしょう。北海道や沖縄の観光PRが比較的うまくいく理由のひとつは、ひとつのエリアにひとつの自治体しかないことで、このような問題がないからなのです。

観光ビジョンから「おもてなし」という自己満足的な発想が消えた今、やはり魅力発信も同様のことをしていかなければいけません。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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