「同一労働同一賃金」なんて本当にできるのか 格差解消の切り札というが課題は山積だ
ちなみに、このような説明をしていると「一職務の賃金は一律に同じ賃金」と誤解される人もいるのですが、欧米の職務給と言えば、一般的には「範囲レート職務給」が採用されています。職務給の中でも一定の幅があり、人事査定によりその賃金を決定する方法です。一つの職務に一つの賃金が対応する「単一レート職務給」は少数派と言えます(参照 職務給と「同一価値労働同一賃金」原則―均等処遇のため(上)明治大学経営学部教授 遠藤公嗣 一橋大学フェアレイバー研究教育センター連載15 NO.1684-2008.11.25)。
個々の企業が職務給をはじめとした同一労働同一賃金を導入するに当たっての課題は山積しています。まず、現実的な壁は賃金の「原資」です。そもそもの推進の狙いが「賃金格差の是正」なので、なんとしても非正規労働者の賃金を上げる必要があります。
一部の大企業以外は正社員の賃金圧縮に?
ところが、一部の大企業のように内部留保や設備投資に使っていた分を非正規労働者の賃金に充てることができるのであれば可能かもしれませんが、その余裕のない会社は、正社員の賃金を圧縮する方法も視野に入れなければならない可能性も出てきます。言ってみれば、既存の正社員に「パートの皆さんの給与を上げたいから、社員の皆さんは賞与を我慢してくれ」といった協力要請をし、同意を得る必要があるからです。
そもそも導入自体に立ちはだかる高い壁はまだあります。それは、現在の日本企業の雇用慣行です。正社員のほとんどが配置換えなどジョブローテーションを前提にしているため、複数の職務に配属される可能性があります。
つまり、配属を変えるたびに賃金の変動が起こってしまうのです。例えば、総務部から商品開発へ異動する場合、属人的な要素で決定する職能給であれば、賃金額は変動せずに異動ができるのに対し、職務給では一定の水準が職務に応じて決まっているため、賃金額の変動が起こってしまうのです。したがって、本来的には会社が持っている人事権を行使しづらくなってしまうわけです。
また、職務を分析し、評価することも導入を難しくさせます。例えば、冒頭のパートの中山さんの賃金はチーフの百田さんの約6割にあたります。賞与を計算すれば開きはもっと大きくなるでしょう。
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