現代人の「買物欲」は、なぜ簡単に流れるのか あの便利ツールが、むしろ「買物ストレス」に

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そして3つ目は「商品の種類・違いの情報増による、商品自体の選択のストレス」だ。

「モノ選びに時間がかかりすぎて、本当に自分の欲しいモノなのかわからなくなる」(50歳・女性・千葉県)
「商品の数が多すぎて、何がいちばんよさそうか探しているうちに忘れてしまうことが多い」(24歳・女性・東京都)
「似たような商品なのに、少しの機能の差で金額が大幅に違っていたりすると、選ぶことが面倒」(27歳・女性・石川県)

 

これらのコメントをはじめ、「モノを選ぶのは面倒だと感じることがある」「モノが多すぎることをストレスに感じることがある」と回答した欲求流去経験者は、いずれも4割強に上った。

新商品の投入サイクルは早くなり、短い期間に類似商品がどんどん増える。多少の機能の違いで価格が大きく異なることも多く、生活者はどの商品が本当に自分に必要なのか見極められなくなっている。「バリエーションの豊富さ」は、必ずしも価値でなくなっているのかもしれない。

ニーズをとらえるための施策が裏目に

このように生活者は、今「情報」「タイミング」「モノ」選択のストレスに悩まされ、買物欲を失っている。

企業はこれまで、生活者のニーズをとらえるため、商品も情報もせっせと増やしてきたわけだが、その情報の氾濫が、むしろ買いたいモノ・買うべきモノを「わからなく」してしまっているのだ。

皮肉なことだが、わからないことが増えると、人は大きなストレスを感じるようになる。忙しい生活の中でそのストレスと向き合う余裕のない生活者は、「欲しい」と思っても購入を先送りし、日々新たな情報がやってくる中で、いつの間にか買物欲を忘れてしまうのだ。

ただ、欲求が流れ去ってしまう前には、確実に「欲しい」という気持ちがあったはずである。その気持ちは、果たしてどの段階・接点で流れてしまうのか。それがわかれば、流去を食い止める方策が見つかるかもしれない。次回はそれを探ってみたい。

前回記事:事実!日本人の「買物欲」は衰えていなかった

山本 泰士 博報堂買物研究所 ストラテジックプラニングディレクター

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やまもと やすし / Yasushi Yamamoto

 

2003年、博報堂入社。マーケティングプラナーとして教育、飲料、自動車、トイレタリー、外食などのコミュニケーションプランニングを担当。2011年より生活総合研究所にて未来洞察コンテンツの研究・発表を担当。「総子化」「インフラ友達」「デュアル・マス」などの制作・執筆にかかわる。2015年より現職。

博報堂買物研究所は、企業の「売る」を、生活者の「買う」から考え、生活者の“買物”の構造・実態を多角的に分析し、ショッパーマーケティング・ソリューションを提供する実践型組織です。

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