さて、マイナス金利の導入を決めた後、日銀が国債を買い入れるペースは以前と変わりないが、早くも金利低下圧力が作用して、国債金利(新発10年物)は、2月5日にはついに史上最低の0.02%まで低下した。デフレ脱却のためなら、未曽有の低金利で国債を増発できるのだから、増発した国債を元手に財政出動をすればよい、との見方が、以前からくすぶり続けている。マイナス金利の導入により国債金利がさらに低下しており、そうした財政出動圧力はさらに高まるかもしれない。
しかし、そもそも、なぜマイナス金利なのか。マイナス金利の導入というサプライズも冷めやらぬうちから、早くもその趣旨を忘れている。繰り返すが、マイナス金利の導入は、デフレ脱却を図るためである。ここでは、それがどれほど功を奏すかは不問として、安直に国債増発・財政出動を行うことが、マイナス金利導入の目的と矛盾することに焦点を当てよう。
物価上昇率が2%に上昇すると利払費はどうなるか
マイナス金利の導入などにより、首尾よくデフレ脱却が実現すれば、物価は持続的に上がり始める。特に、物価安定目標通りに消費者物価上昇率が2%となる状況で、国債金利はどうなるか。物価が持続的に上がるインフレの経済では、物価上昇分は名目金利に反映するのが当然である。要するに、物価が上昇した分は、国債金利に反映される。少なくとも、2%の物価安定目標が達成されれば、国債金利は今より2%程度上昇する。
これは、決して悪いことではない。金融市場ではごく自然なことであり、債務者である日本政府もこれは甘受すべきである。ここでは、国債累増に伴う金利上昇ではなく、デフレ脱却に伴う金利上昇を議論している。では、国債金利が今より2%程度上昇すればどうなるか。
財務省が先ごろ公表した「平成28年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算(平成28年2月)」によれば、国の一般会計が負う国債だけで、想定より金利が2%上昇すれば、利払費は上昇した1年目で2.0兆円、2年目で4.5兆円、3年目で7.6兆円、4年目には9.7兆円も増加する。目下、国債残高は膨大だが低金利のお蔭でそれでも10兆円程度の利払費で済んでいるが、金利が2%上昇するだけで利払費は4年で倍増することになる。
史上最低水準の金利で国債が増発できるから、今のうちの財政出動しておけばよいと考えるのは、「先憂後楽」ならぬ「先楽後憂」である。史上最低水準の金利で借りられるのは、今年新発したり借り換えたりする国債だけである。しかも、50年間も100年間も超低利の固定金利で借りられるわけではない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら