大きな理由がふたつあります。
一つ目は、保険会社が引受けにくいリスクは、かわって国が引受けてきたからです。だから「保険危機」は起きません。たとえば、巨大地震のリスクは95%以上を国が引き受けることになっています。医療保険も日本では国が引き受けています。
そんなことはない。民間保険会社が医療保険を販売しているではないか。そう疑問を抱かれる人も多いかと思います。実は民間の医療保険の多くは、入院時の差額ベット代やその間の所得を保障する保険です。名前は医療保険でも医療費そのものを保障していません。本当の医療費用リスクは国が健康保険制度で引受けているのです(「要注意!日本の医療保険は看板に偽りあり」)。
二つ目は、保険会社の採算が悪化して保険引受けにブレーキが掛かることのないように、長年にわたり様々な規制で保険会社の経営が守られてきたからです。体力のない保険会社でも一定の利益を挙げることができるように「護送船団方式」と呼ばれる政策が、長い間続けられてきました。過度な価格(保険料)競争により弱い保険会社の採算が悪化しないように、価格統制されてきたのです。
このように、日本では保険会社が引き受けにくいリスクは国が引き受け、保険会社の採算が悪化しないような保険行政が行われてきました。つまり日本では保険会社、特に生保会社がキャパシティ不足の状態に陥ることはほとんどありませんでした。これまで日本で「保険危機」が起こることがなかったのは、こうした国の保険政策のおかげだったのです。
日本の保険会社にはブレーキが付いていない
保険業はリスク引受業です。良質のリスク(グッドリスク)を引受け、危ないリスク(バッドリスク)は避ける。このようにリスクを見分けることが保険ビジネスのノウハウです(「アンダーライティング」と呼ばれます)。グッドリスクならば競争相手に負けないようにアクセルをふかし全速力で引受けに走ります。一方でバッドリスクは、うっかり踏み込まないようにブレーキをかけ、これをかわします。だから、「保険危機」は保険会社がブレーキをかけ過ぎた時に起こります。
ところが、これまで日本の保険会社にはブレーキが付いていませんでした。バッドリスクの大半は国が引受けていますから、市場に残っているのはグッドリスクばかりです。つまり、日本の保険会社はバッドリスクを避けて急停車する必要がありませんでした。ただアクセルを踏み込み、ライバル会社に先んじてグッドリスクをかき集めさえすればよかったのです。アンダーライティング不在の営業第一主義が日本の保険会社の経営モデルでした。
だから、「保険危機」が起こることなどあり得ませんでした。では将来はどうでしょうか。
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