アメリカで頻発する「保険危機」とは何なのか これからは日本でも起こるリスクはある

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 これから先、日本でも「保険危機」は起こるのでしょうか。それとも起こらないのでしょうか。先ほど挙げた二つの保険政策がなくなってしまえば、保険危機が起こる可能性はあります。

まず、一つ目です。保険会社が引受けにくいリスクを、国が引受けられたのはなぜでしょうか。その答えは、保険の赤字を税金で補うことができたからです。税金を投入できるのは国だけの特権です。しかし、大量の国債発行による日本の財政運営はいよいよ限界に達しています。

国は財政難から、これまで引き受けてきたリスクを徐々に絞っていかざるを得ないでしょう。国が引受けから後退することで生じるすき間は、民間保険会社が埋めていくことになります。つまり、保険会社はこれまでのグッドリスクだけの引受けから、徐々にバッドリスクも取り込まざるを得なくなってきます。

二つ目の保険政策はどうでしょうか。1995年以降始まった保険の自由化は、すでにかなり進んでいます。競争激化により、保険会社の採算ラインはこれまでよりもハードルの高い厳しいものとなっています。熾烈な保険料競争が、現実のものとなりつつあります。 

米国に近い状態になっていく日本

 つまり、これからは日本も少しずつ米国に近い状況になっていくことが予想されます。その意味では、将来、日本で「保険危機」が発生する可能性を完全に否定することはできません。

ただ、米国の「保険危機」はかなり極端なケースです。市場経済を妄信する米国型な考え方を保険に全面的に適用することには無理があります。市場で引受け切れない保険リスクはどうしても存在するのです。日本の国家運営はある意味、社会主義的ですから、米国のような極端な「保険危機」が起こることは考えにくいでしょう。

しかし、少しずつ厳しい状況へ向かっていくことだけは確かです。それは、消費者にとっても保険会社にとっても、今より厳しい世界に一歩踏み出すことを意味します。これまで続いた幸せな時代は終わりました。日本で「保険危機」が起こらないための新しい知恵が求められています。

橋爪 健人 保険を知り尽くした男

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はしづめたけと / Taketo Hashizume

1974年東北大学卒、1984年米国デューク大学修士。日本生命保険に入社後、ホールセール企画部門、米国留学、法人営業部門を経て米国日本生命副社長。帰国後、損保会社出向、ジャパン・アフィニティ(保険ブローカー会社)代表取締役を経て2004年独立。企業向け保険ビジネスのコンサルタントとして活動。著書に『日本人が保険で大損する仕組み』(日本経済新聞出版社)

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