アメリカで頻発する「保険危機」とは何なのか

これからは日本でも起こるリスクはある

 日本では、これまで消費者が必要な保険に入れない状況になったことはありません。ですから「保険危機」を知りません。ところが、米国では日常茶飯事です。社会問題化することもよくあります。

たとえば、米国の医療保険。日本のような公的健康保険のない米国では、医療保険に入っていないと、病気になった際になかなか治療が受けられません。安心して生活するために必要不可欠な保険です。ところが、米国では保険会社がよく引受けを拒否します。医療保険の採算が悪化してくると引受けをやめたり、保険料を高く引き上げるなどして実質的に入れないようにしてしまいます。そのため、貧困層でなくても多くの人たちが医療保険に入れない「無保険者」となってしまいます。 

州政府の対策とは?

保険会社のこのような動きを封じるために、州政府(米国では保険は州の管轄です)も対策を練ります。引受拒否を禁止する法律を発効させ、引受けを拒否した保険会社に巨額の罰金を課すなどして牽制します。保険会社側もしたたかで、州保険庁の動きを察知すると、早々とその州での保険事業から撤退して防衛します。

このような、日本では考えられない保険会社と行政側のせめぎ合いが、全米各州で繰り広げられています。これが米国の医療保険問題です。この長期にわたる「保険危機」を何とか解決しようと、オバマ大統領が新しい医療保険制度(通称「オバマケア」)をスタートさせています。

「保険危機」は医療保険分野にとどまりません。訴訟社会である米国では、損害賠償責任保険がないと企業活動は大きな制約を受けます。安心してビジネスができません。ところが、日本と比べて、損害賠償額が信じられないくらい巨額となる米国では、よく保険会社が引受けを止めてしまいます。

企業も必死です。様々な方策を講じて賠償責任保険を手に入れるように奔走します。一般的には自社、あるいは企業同士が協力して賠償責任保険専門の保険会社をつくってしまいます。医療保険や労働災害保険では、消費者が自分たちで保険制度(自家保険)をつくり「保険危機」を乗り越えようとします。最近は証券化などの金融手法により、保険に代わるリスクヘッジ策も開発されています。このように、「保険危機」を巡る目まぐるしい動きが、米国の保険技術を進化させるという皮肉な結果となっています。

ところで、日本でこれまで「保険危機」が起こらなかったのはなぜでしょうか。

次ページ日本人が「保険危機」を知らずに済んだ2つのワケ
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