《財務・会計講座》雇用、配当、先行投資、それとも内部留保?-危機への対応をファイナンス的に考える

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■雇用・投資は中長期的視点、配当は手元のリスクを勘案して

 最後に配当はどう考えたら良いであろうか? 配当はあくまでもFCFの投資家への返還(利益の株主への還元)である。したがって、もともとFCFが無ければ配当はすべきでない。一方で、FCFが潤沢で、適切な投資案件が無いのであれば、配当すべきである。配当も自社株買いもせずにいれば、FCFは現預金として社内に積み上がっていく。この観点からは、企業として適正と考えられる現預金の水準とは何かを考えなければいけない。ファイナンス理論では、余剰キャッシュは基本的には内部留保すべきではなく、投資家に還元すべきだとしている。ただし、これはあくまでも、必要があればいつでも資金調達ができることを前提としている。

 今回のような未曽有の金融・経済危機が発生した場合には、企業の資金調達活動も大きく制約を受けることになる。資金需要の高まる3月期末を目前に、通常であれば社債の発行で資金を確保できる大企業も、信用リスクに敏感な投資家が社債市場を敬遠しているため、社債の発行もままならない。このような状況下で、大企業も手元流動性を積み上げるべく、銀行借り入れの拡大に走っている。一方、サブプライムローン問題に端を発した金融危機のさなか、銀行も貸し出し余力が乏しくなっており、このため、本当に資金が必要な中小企業にまで資金が回らず、倒産する企業が増えてきている。

 それでは、どの程度の手元流動性を持っていればよいかであるが、例えば、ソニーは「連結月次売上高の50%と半年以内に期限が到来する債務返済額の合計を現預金と融資枠の未使用額の合計でカバーできるように現預金と融資枠を保持する」ことを方針としている。2008年12月末の現預金残高は約5000億円と、現状6000億円から7000億円程度である月次連結売上高の7割から8割の水準になっている。

 この方針は、各企業の事業形態、事業規模、資金ポジションや資金ニーズ等々によって異なってくる。有事に備えて元資金を厚めに保有することはリスク対策となるが、その一方で、現預金は事業収益に匹敵するほどの収益は生まないことから、資金効率の低下をもたらす。

 結論としては、雇用と投資は、自社の中長期的な競争優位性の維持・強化に寄与するかどうかの視点から検討すべきである。一方、配当(そして自己株買い)は、起こりうる経済危機や自社の事業構造に内蔵したリスクを含めた自社を取り巻く諸般のリスクを見据えながら、最悪の場合でも債務超過状況にならないようにするためには、どの程度の自己資本そして現預金を維持しておくべきかという視点で検討すべきということになろう。

《プロフィール》
斎藤忠久(さいとう・ただひさ)
東京外国語大学英米語学科(国際関係専修)卒業後フランス・リヨン大学経済学部留学、シカゴ大学にてMBA(High Honors)修了。
株式会社富士銀行(現在の株式会社みずほフィナンシャルグループ)を経て、株式会社富士ナショナルシティ・コンサルティング(現在のみずほ総合研究所株式会社)に出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。
その後、ナカミチ株式会社にて経営企画、海外営業、営業業務、経理・財務等々の幅広い業務分野を担当、取締役経理部長兼経営企画室長を経て米国持ち株子会社にて副社長兼CFOを歴任。
その後、米国通信系のベンチャー企業であるパケットビデオ社で国際財務担当上級副社長として日本法人の設立・立上、日本法人の代表取締役社長を務めた後、エンターテインメント系コンテンツのベンチャー企業である株式会社アットマークの専務取締役を経て、現在株式会社エムティーアイ(JASDAQ上場)取締役兼執行役員専務コーポレート・サービス本部長。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2009年3月13日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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