「年を取ると早起きになる」には理由があった 解明が進む「体内時計」の驚くべき役割
だが、アキール博士のチームは次善の策を数年前に考えついた。
カリフォルニア大学アーバイン校では、科学目的のために提供された脳がいくつも保管されている。その以前の持ち主は、朝に亡くなった人もいれば、午後や夜に亡くなった人もいる。アキール博士らは、ドナー(提供者)が死亡した時刻によって脳に違いはあるだろうかと考えた。
「とても単純な発想かもしれないが、それまでに思いついた人はいなかった」と、アキール博士は言う。
一日のサイクルがある遺伝子を発見
アキール博士らは、交通事故などで突然に亡くなった55人の健康だった人たちの脳を選んだ。そして、それぞれの脳から学習や記憶、感情に関連する部分の細胞を取り出した。どのドナーが死亡した時も、脳細胞は何らかの遺伝子からタンパク質を合成している最中だった。脳が素早く保存されたために、博士らはドナーの死亡時の遺伝子の状態を調べることができた。
調べた遺伝子の大半は、一日のサイクルで一定の活性化パターンを示すものではなかった。しかし、1000以上の遺伝子が、一日ごとのサイクルに従っていることがわかった。一日の同じ時刻に死亡した人たちは、それらの遺伝子の活性化レベルが同程度の水準にあったのだ。
このパターンは非常に一貫しており、それらの遺伝子はタイムスタンプ(時刻を表示するスタンプ)のようでもあった。「遺伝子を基にドナーの死亡時刻を推定すると、誤差1時間以内で時刻を言い当てることができた」と、アキール博士は言う。
さらに博士らは、死亡する以前に重いうつ病を患っていた34人の脳も調べた。すると、タイムスタンプは大幅にずれていた。「まるで、ドナーが日本やドイツにでもいたかのようだった」。
アキール博士らは、この研究結果を2013年に発表した。すると、ピッツバーグ大学医学部の研究者たちも、同じ実験をしてみようと思い立った。
「以前は、そんなことができるとは考えていなかった」と、神経科学者のコリーン・A・マクラング博士は話す。
マクラング博士のチームはより大きな規模で研究を行い、同大学のドナー・プログラムで集められた146人の脳を調べた。その研究結果は、昨年末「米国科学アカデミー紀要」に発表された。「人間はとても調子よくリズムを刻んでいる」と、マクラング博士は言う。「まるでスナップ写真のように、亡くなった瞬間にその脳がどうしていたかがわかるようだった」。