《ミドルのための実践的戦略思考》「範囲の経済」で読み解く化粧品メーカーの営業所長・藤本の悩み

例えば、繊維技術をベースに自動車向けの内装ビジネスを手掛けている会社があるとします。その企業が基盤となる技術基盤に範囲の経済を効かせるため、住宅資材事業に参入したとしましょう。そこにはビジネスモデルの違いから派生する様々な難しさがあることは容易に想像がつくと思いますが、何よりも問題になるのは、当初描いていた「範囲の経済」ということが全く忘れられてしまう、ということです。

当然ながら自動車向け内装と住宅資材というのは顧客が異なり、そのニーズも異なります。それぞれの事業担当者は、ベストを尽くしてそれぞれの顧客ニーズに対応しようとする。そういう引力が働けば働くほど、ベースとなっている繊維技術ということに対して物足りなさを感じるようになるのです。

当然時間が経てば、当初手掛けていた自動車向け内装ビジネスを知らない社員も出てくるでしょう。別会社にすれば、その住宅資材メーカーとしてのプロフェッショナル社員を採ることも出てくるかもしれません。

そうなると、それぞれのビジネスラインからは、「もう少しこういう商品が作れるような研究開発をしてほしい」といったニーズが矢継ぎ早に出てくるまでにそれほど時間はかかりません。

難しいのは、そうなった段階で「範囲の経済」をどう効かせるのか、という判断です。

多くの場合は、そこで個別論の引力に負けて、なし崩し的に個別ラインのニーズに即した開発を進めてしまいます。つまり、知らず知らずのうちに、「共通部分の分断」が起きてしまうのです。しかし、それを突き詰めると最終的には、全くシナジーを発揮しない2つのビジネスモデルが出来上がる、というだけになります。

これも「範囲の不経済」の発生理由です。このシナリオに陥って、全く経済性を発揮しない多角化事業が積み重なる企業事例は枚挙にいとまがありません。

似たようなことは、多国展開するグローバルビジネスでもよく見受けられます。例えば、A国で成功したビジネスがあったとします。そのA国で築いた資産を横展開して範囲の経済を追求しようとするところまではいいのですが、実際にB国に参入したところ、A国とは全くニーズが異なるということに気付きます。

その時に闇雲にB国ニーズに合わせたビジネスを展開しようとすると、結果的にA国とB国で全くリソースが共有できないビジネスが出来上がり、全社レベルで見ると非効率性を生むことになってしまうのです。

こういったことを防ぐためには、高度なマネジメントが必要になってきます。具体的には事業責任者レベルでのコミュニケーションや、全社的に管理のための指標を導入といった仕組みなどが考えられます。

ただ、いずれの仕組みを採るとしても、結局は事業責任者からの「個別最適論」の強力な引力を克服しなくてはなりません。当然、事業責任者には、短期業績目標などが念頭にありますから、そのプレッシャーは強力なものになります。したがって、最終的にはその企業の要所のポジションに「範囲の経済」ということの原理原則を正しく理解している人がどれくらいいるかが問われるでしょう。

短期的には範囲の経済性を発揮できた企業が、しばらくした後に範囲の不経済となってしまうのは、このあたりの「範囲の経済のマネジメント」まで視野に入れられていないことに原因がある場合が多いのです。

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