《ミドルのための実践的戦略思考》「範囲の経済」で読み解く化粧品メーカーの営業所長・藤本の悩み

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まず、範囲の経済は、どの資産を多重利用するかによって、いくつかのパターンに分けられます。具体的には「顧客接点を多重利用するパターン(顧客接点活用型)」と、「社内保有資産を多重利用するパターン(社内資産活用型)」に二分できます。

そして、社内保有資産活用型は、「稼働している資産を活用する場合」と、「非稼働資産を活用する場合にさらに二分できます。

それぞれについて見ていきましょう。

まずは顧客接点活用型です。これは例えば、既に商品Aというものを通じて営業接点を持っている顧客に対して、商品Bというプロダクトラインを拡張して一顧客当たりの売上を伸ばすような事例が該当します。つまり、一度獲得した顧客接点をベースに更に異なる商品の販売が可能になれば、商品数が少ないプレイヤーよりもコスト効率が向上する、というメカニズムです。

マーケティングから営業コストまでひっくるめると、新規顧客獲得よりも、既存顧客に対して営業拡大していく方が、コスト効率が良いということは、多くの業界で見られることです。この背景にあるのは、まさに一度築いた資産を活用する、という範囲の経済の原理が背後にあります。

もう1つのパターンは、社内資産活用型です。これを説明するのに一番分かりやすい事例は、Amazon.comでしょう。Amazonは、設立当初は書籍のネット販売のみを行っていました。Amazonは、このビジネスを成立させるために、効率的な物流倉庫やITシステムの構築で多額の投資をしてきました。

こういった物流倉庫やシステムなどの費用は固定費となるわけですが、まずAmazonは書籍を出来るだけ多く販売することによって、1冊あたりの固定費を安くすることに成功します(これが規模の経済です)。

そして、さらには、この一度築いた社内資産を活用して、次々に新たな商材を加えていきました。例えば具体的には、CDやDVDからエレクトロニクス商品、スポーツ用品、おもちゃなどです。既に存在する社内資産を活用するため、商品ラインナップを広げても追加コストはそれほど発生しません。

したがって、例えばスポーツ用品だけをネット販売するプレイヤーと比較しても圧倒的な低コストで商品を提供することが可能になります。これが社内資産活用型の範囲の経済というものです。

最後に、同じ社内資産活用型においても、上記のように稼働資産を多重利用するものではなく、非稼働資産を活用する、という場合もあります。例えば具体的には、キユーピーにおける卵殻の有効活用などの事例が該当します。

マヨネーズの主原料は卵なのですが、そのために卵殻の大量の廃棄物が発生します。キユーピーはその殻を有効活用し、カルシウム補給源として育児食や栄養機能食品に用いることや、チョークの原料として使うことによって、単純にこれらの事業をやっているプレイヤーと比較してコスト面の優位性を獲得しています(但し、当然ながら、安易な非稼働資産の活用は要注意です。その留意点は後述します)。

以上、範囲の経済について、いくつかのパターンを紹介してきましたが、これらの原則を組み合わせてうまく活用している違う事例を考えてみましょう。

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