市場が拡大しているというより、選ばれ方が変わってきている。格上げのための消費ではなく、自分のアイデンティティを表すものとして、デザイン性を重視したジュエリーを選ぶ人が増えてきているようだ。
話題が経営の話になると、chihiroさんの口調は一段と現実的になる。
「ものづくりをしている人の話を聞くと、クリエイティブはすごく強いのに、ビジネスの部分が本当に大変だなって思うことが多くて。でも、続けるためにはそこを避けて通れないんですよね。
ただ私は、基本的に経営ってすごくシンプルに、売り上げ−経費=利益、の計算式だと思っていて。売り上げを上げるか、コストを下げるか、そのどっちかしかないじゃないですか。そのレバーをどう動かすかを、パズルみたいに一回考えて、やってみて、結果を見て、違ったら直す、みたいな作業を繰り返している感じです」
彼女が取材中、繰り返し口にしていたのは、「持続」という言葉だった。
才能があっても、途中で消耗してしまえば意味がない。きれいなものを作ることと、それを続けられる仕組みをつくることは、別の仕事だ。クリエイティブな才能が、現実の経済の中でどうすれば持続できるのかーー彼女にとってジュエリー業界は、成長産業かどうかよりも、その”問い”を現場で考え続けられる場所であることが重要だった。
自らの才能を活かし「憧れ」に貢献する
話を聞いていると、chihiroさんがクリエイティブな世界に強いシンパシーを抱いていることは、疑いようがなかった。それは、計算の結果というより、意思や情熱に近いもののように感じた。
しかし、それだけクリエイティブ業界に深い愛着を持ちながら、彼女は自分自身を「クリエイター側」には置かないのだ。その距離の取り方には、生い立ちや、これまでの試行錯誤が深く関わっている。
家族の話題になると、彼女は少し言葉を選んだ。
「親がクリエイティブ系だったとは聞いています。空間デザインとか、そういう分野だったみたいですね。私がクリエイティブなことに関心を持ったのは、その影響があると思います。ただ、あまり詳しく話したくなくて……今は、少し距離があるんですよね」
身近にあったからこそ憧れもし、そのリスクや難しさも見えてくる——そんな逡巡(しゅんじゅん)が、彼女の言葉の端から垣間見えた。
「私自身、大学時代にはファッションやデザインをかじってみたこともあるんです。でも自分がつくるものを全然『かわいい』と思えなくて(笑)。一方で、経営とかビジネスの話は、スッと頭に入ってきたんです」


















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