いま最重要視される「問いを立てる力」「批判的思考」。世界のビジネスパーソンが熱い視線を送り、巨額が動く現代美術のリアル事情

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現代の教育や社会は専門分化が進み、それぞれの分野が蛸壺化しています。経済の専門家は経済の論理だけで、科学者は科学の論理だけで動いてしまう。しかし、現実の世界はすべてが複雑に絡み合っています。

現代美術は、そのような分断された知をもう一度つなぎ合わせ、「世界はどう成り立っているのか」「私たちは何者なのか」という根源的な問いを投げかけます。

いまの社会システムが永遠に続くとはかぎらない現代において、「違う可能性」を想像し、硬直した思考を解きほぐすレッスンとして、現代美術ほど有効なものはありません

過熱する現代美術マーケット。しかし…

イベントの最後に行われた質疑応答では、現代美術とお金の関係についての鋭い質問も飛び出しました。

Q:現代美術が高騰し、投資対象になっている現状をどう思うか?

A:現代美術の価格は、作品そのものの質だけでなく、どの批評家が評価したか、どのギャラリーが扱っているか、どの美術館が収蔵したか、誰がコレクションしているかなど、「ネットワーク(アートワールド)」の力学で決まる部分が大きく、非常に不可解で矛盾に満ちた世界です。

これはいまの資本主義社会の縮図でもありますが、ただ、きちんと作家の未来を考えるギャラリーなら、作品が投資目的として高騰することについて対策を講じているはずです。

芸術作品は本来、みんなのものです。それを守り伝える意識がコレクターさんにも必要だと思います。とはいえ、肩肘を張らずに、日本でももっとカジュアルにご自分の感性に即してアートを買い、楽しむ文化が根づいてほしいと願っています。おとなりの韓国や中国の若い世代は、比較的気軽にアート作品を購入している傾向が見られますが、数万円で買える素晴らしい作品もたくさんありますので。

Q:難解な作品には解説が必要ですか? それとも予備知識なしで見るべきですか?

A:知識があったほうが、作家がしかけた「ゲーム」の文脈が理解できておもしろいのは間違いありません。しかし、知識がなければ楽しめないわけではありません。

たとえば、先ほどお話ししたデュシャンの『泉』でもいいですし、あるいはゴミにも見える作品が床に置いてあるとして、解説を読んで「ああ、美術館という制度を可視化するものなんだ」と納得するのも1つの見方ですが、解説なしに「何だこれ? ゴミかな?」と違和感を持つこと、そのザワザワした感覚自体がすでに重要な芸術体験なのです。

作品そのものよりも、それを通して「自分の感覚が開かれる」「世界の見え方が変わる」ことのほうが重要だと私は思います。

現代美術を知ることは、いまの世界を知ることです。

一見、難解で奇妙に見える作品たちの背後には、私たちが生きるこの社会への切実な問いかけが込められています。美術館を訪れ、わけのわからない作品の前に立ったとき、すぐに「答え」を求めず、まずはその「わからなさ」を楽しんでみてください。

そこで得た「問い」や「違和感」は、きっと皆さんのビジネスや生活における思考の枠組みを、少しだけ広げてくれるはずです。

藪前 知子 キュレーター・東京都現代美術館学芸員

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やぶまえ ともこ / Tomoko Yabumae

企画担当した展覧会に「大竹伸朗 全景 1955-2006」(2006)、「山口小夜子 世界を着る人」(2015)、「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」(2015)、「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」(2020)、「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する](2021)、「日本現代美術私観 高橋龍太郎コレクション」(2024)、岡﨑乾二郎 而今而後 ジコンジコ Time Unfolding Here」(2025、以上、東京都現代美術館)など。「札幌国際芸術祭2017」「αMプロジェクト 東京計画2019」をはじめ外部キュレーション、雑誌・ウェブ等に日本の近現代美術についての寄稿多数。

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