大国ロシアの脅威にさらされながら、不平等条約の解消は程遠い。そんな当時の政治状況が、西郷のようなリーダーを切実に欲したことが「西郷生存説」拡大の背景にはあったようだ。
皇太子のニコライとともに西郷が生きて帰ってくるかもしれない――。そんな人々の期待が実現することはなかったが、一度信じ込まれた風説はしぶとく残るもの。ニコライが来日したのちも「ロシア将官のなかに西郷に似た人物がいた」という噂に変換されて、一部では、西郷の生存がしばらく信じられることになった。
偽物騒動も生んだポルトガル王セバスティアン
国外に目を転じれば、ポルトガル王セバスティアンは14歳から親政をとり、祖父ジョアン3世が放棄したモロッコに対する十字軍戦争をしかけるも、1578年のアルカセル・キビールの戦いで大敗。24歳で戦死してしまう。
セバスティアンに跡継ぎがおらず、有力な後継者がいなかったことから、その後、ポルトガルはスペインの支配下に置かれることになる。困窮したポルトガルの民衆たちの間では、こんな噂が広がった。
「敗北を恥じて姿を隠しているだけで、実はセバスティアンは生き延びている」
セバスティアンの帰国が待望されるなかで、各地にセバスティアンを詐称する者が多く現れるという騒動となっている。
民衆からの人気や期待が集まる人物ほど、広く人口に膾炙しやすい「生存説」。
特に平賀源内の場合は、多岐にわたるジャンルで奇想天外のアイデアを実現させて、発明品や文芸作品、創作物でみなを楽しませてきた。
そんな源内ならではのトリッキーさも「ひょこっとまた現れてくれるのではないか?」という「生存説」に、妙な説得力を持たせたのではないだろうか。
【参考文献】
芳賀徹著『平賀源内』(朝日選書)
新戸雅章著『平賀源内』(平凡社新書)
貴志正造訳注『全訳 吾妻鏡』(新人物往来社)
新井白石著、原田信男校注『蝦夷志 南島志』(東洋文庫)
小谷部全一郎著『成吉思汗ハ源義経也』(冨山房)
五味文彦著『源義経』岩波書店(岩波新書)
高木浩明監修『源義経99の謎と真相』二見書房(二見WAiWA
土井全二郎著『義経伝説を作った男―義経ジンギスカン説を唱えた奇骨の人・小谷部全一郎伝』(光人社)
佐々木克著「西郷隆盛と西郷伝説」『岩波講座日本通史 第16巻』(岩波書店)
「維新の英雄、幻の帰還 第9回 西郷生存伝説の狂騒」(2013年10月27日付日本経済新聞)
金七紀男著『図説 ポルトガルの歴史』(河出書房新社)
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