
自分の中で「たぶん大丈夫だろう」といった考えは強かった。そもそも私にキスしてきた野犬が狂犬病である確証はない。もしも普通の犬だった場合、何の心配も問題もないわけだ。しかし人間とは不思議なもので、ほんのわずかでも「万が一の場合は確実に死亡」という事実を突きつけられると、猛烈な不安とストレスに襲われるらしい。
それでも私が病院に行くのを躊躇ってしまったのは、お金の心配をしていたからだ。
もう少し正確に表現すると、狂犬病ワクチンを打つのに全部で10万円ほど(ワクチンは約1カ月間に計5回摂取する)の費用が必要なことはGoogle先生に教えてもらったが、おそらく感染していないであろう病気のために10万円を失うことに抵抗感があった。私は異国の病院に一度も行ったことがなく、英語が不得意なことも躊躇う理由の一つだった。
結局、何の行動もしないままアルメニア観光を終え、私はジョージアに戻った(日本への帰国便がジョージア発だった)。お世話になっているゲストハウスに戻り、女性オーナーに「夜行列車を降りたら野犬にキスされちゃいましたよ(笑)」と報告を入れたとき、オーナーの顔色が変わった。
女性「ジョージアの野犬は本当に危ないの。タグが付いてる犬でも信用しちゃダメ。私も何年か前に犬に咬まれて、すぐにワクチンを打ったわ。世界では年間で6万人近くの人が狂犬病で亡くなっている。今すぐ病院に行きなさい!」

男性は特に注意。狂犬病「心の死角」を生む構造
24時間受診できる病院をスマホで検索→私がゲストハウスを出発したのは22時半前。野犬にキスされてから48時間ほどが経っていた。病院まで約4キロの道のりはランニングで移動した。23時頃に病院に到着した私は、受付の女性に「ドッグ・ワクチン・プリーズ」と伝え、渡された書類に氏名やパスポート番号などを記入……。
先生のいる部屋に入ると、案の定と言うべきか、流暢な英語で話しかけられた。残念ながら私の英語力は壊滅的(センター試験英語の点数は半分以下)なので、私は先生に「My English is not good」と伝えた。その後は簡単な英語とジェスチャー、スマートフォンを使って先生と対話。
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