「致死率ほぼ100%」「有効な治療法はない」……日本人は知らない狂犬病の恐ろしさ。予防接種を受けずに海外渡航した30代男性の顛末

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狂犬病
厚生労働省「狂犬病の発生状況」資料。日本を含めた数カ国しか狂犬病清浄地域はなく、世界のほとんどの国で狂犬病に感染するリスクがある(厚生労働省サイトより引用)

自分の順番が近づいてきた私はバッグを床に置き、しゃがみこんだ状態でパスポートを取り出そうとした……その瞬間、3匹の野犬が飛びかかり、私の顔をペロペロと舐めてきた。微笑ましい光景に周りの乗客たち、険しい顔をしていた警備の男性でさえ満面の笑顔だ。しかし、気のせいでなければ、野犬の舌が私の唇に触れたような気がする……。

狂犬病は、狂犬病ウイルスに感染している動物に咬まれたり、傷口や粘膜を舐められたりすることで感染する。潜伏期間は通常1~3カ月間ほどで、発症前に狂犬病の感染を診断できる検査はない。一度発症すると神経症状を伴って、ほぼ100%の確率で死亡する。

厚生労働省の発表によると、2020年にフィリピンから来日した外国籍の方が、日本国内で狂犬病を発症(輸入感染症例)。同年6月に亡くなった。2006年にはフィリピンから帰国した日本人2名が、狂犬病を発症し亡くなっている。

ジョージア 野犬
ジョージアの野犬と夜行列車(筆者撮影)

列車に戻り、「あれ? さっきの犬、タグ付いてたっけな?」といった小さな不安に襲われた私だが、このとき電波の関係でスマホが使えなかった。狂犬病についてGoogle検索できなかった私は、「せっかく海外に来たんだから楽しまなきゃ損だ」と考え、飲みかけのビールで喉を潤しながら旅を続行した。

脳に近いほどヤバイ…。それでも筆者がワクチンを打たなかった理由

野犬にキスされて36時間が経った頃、手持ち無沙汰から、私は宿泊したホテルで狂犬病について検索。前述した狂犬病の「恐さ」について初めて知った私は、「これはちょっとヤバイかもしれない……」と焦りを感じ始めた。

例えば狂犬病ウイルスは、脳に近い部位から侵入するほど潜伏期間が短くなり、症状が早く進行する。つまり唇にキスされた私は、手や足からウイルスが侵入したケースよりも緊急性が高い。また狂犬病ワクチン(暴露後摂取)は受傷後、24時間以内に開始することが望ましく、受傷後はすぐに傷口を流水と石けんで洗うことが重要になる。

もしも狂犬病の予防接種(暴露前摂取・通常3回摂取)を受けていた場合は、感染リスクを大幅に低減できるそうだが……。もちろん私は受けていなかったし、なんならビールで野犬の唾液を飲み込んだかもしれない。

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