「彼は偽りを言った。私は辱められました」 松平定信が親友だった大名と縁を切った彼らしい理由
が、その後も定信の耳には「信亨は鳥を買っている。江戸中の名鳥を多く持っているのは、信亨の他になし」などの流言が頻々と入ってくるのです。定信は信亨と再会した際に「そうした流言を信じる訳ではないが、嫌疑を避けることも君子として大切なことではないか」と直言します。
信亨は「よく言ってくれた。しかし、鳥を買うということは本当にないのだから、どうしようもない」と改めて疑惑を否定したのでした。
これほどまでに疑惑を否定した信亨でしたが、後に鳥を買っていたことが明らかになります。鳥を商う者に定信が尋ねたところによると、信亨の鳥購入は「紛れもなきこと」と言うのです。
絶交を宣言
その事を聞いた定信は本多忠籌と会い「初めて、信亨と交わりし時も、元のように悪しき方向にいったならば、絶交すると申しました。鳥を買うことは悪いことではありませんが、時というものがある。信亨の家臣は秩禄も減らされているとのこと。私が信亨を諌めた時も、彼は偽りを言った。私は辱められました。よって私は信亨と絶交したい」と告げるのでした。
忠籌は定信の言葉に納得します。定信は信亨に書状を送り、交わりを絶ちます。その書状には、今後は交わりを絶つということが記されていると同時に貴方(信亨)が今後「明君となって、国家の藩屏となることがあったならば、よそながら、嬉しいことです。この言葉は、これまで懇ろであったその恩を謝するものです」との文言も記されていました。
定信の元「信友」に対する思いを垣間見ることができますし、定信の人柄がよくわかる挿話であります。ところが、信亨は隠居後も華美な生活をしていたようです。一度染み付いた生活スタイルはなかなか改善が難しいということでしょうか。
(主要参考文献一覧)
・藤田覚『松平定信』(中公新書、1993年)
・高澤憲治『松平定信』(吉川弘文館、2012年)
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