医療AI普及でも…「生きのこれる医師」が行う診療のかたち――専門家が指摘するAIが使えない診療科・診療分野2つ

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

たとえ瞬きしかできない状態でも生きたいと願う患者さんもいれば、延命するくらいならば人工呼吸器をつけたくない、あるいは一度はつける選択をしたけれど外してほしいと願う患者さんもいます。

どの処置をどの段階まで施してほしいかはALSの患者さんごとでまったく異なるばかりか、同じ1人の患者さんの心情も激しく揺れ動くことが珍しくないからです。

それゆえALSの対症療法の選択は、医師が患者さんと緊密かつていねいな意思疎通を図りながら決めるしかなく、症状が進んで本人の意思を確認できなくなったら、医師がそれまでの患者さんの言動から真意を汲みとって、療養の方針を決めざるをえないこともあります。

このような重大かつ微妙な判断は、AIにできることではありません。

なおALSに関しては、徳島大学の研究グループが、発症から1年以内の患者さんにビタミンの一種であるメコバラミンを投与したところ、症状の進行を抑える効果があることが確認され、2024年9月、国が正式にALSの治療薬として承認しました。

活性型ビタミンB12の一形態であるメコバラミンは、末梢神経障害の治療薬として活用されてきたものですが、この薬をALS患者に投与しようという発想は通常のロジックからは生まれえないもので、おそらくはALSの治療法の研究を20年以上前から進めていた徳島大学の先生方だから気づけた「何か」が研究の過程ではあったのでしょう。

こうした理を超越したひらめきのような部分も、もしかしたら人間がAIに勝る部分かもしれません。

あえてニセモノの薬を使う

医療機関を受診する人のなかには、実際は病気ではないのに自分が病気なのではないかと思い込み、不安に駆られてやってくる人もいます。

こうした人にただ「あなたは病気じゃありません」と教えるのではなく、安心を提供するための術を知っていることも、AIにはできない人間医師ならではの長所かもしれません。

経験豊富な医師のなかには、問診でも検査でもまったく異常が見つからず、どの角度から検討しても病気ではないものの本人は何かの病気だと思い込んでいる患者さんに対し、あえてビタミン剤のような、特別何かに効くわけではないけれど害にもならない薬を処方する人がいます。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事