医療AI普及でも…「生きのこれる医師」が行う診療のかたち――専門家が指摘するAIが使えない診療科・診療分野2つ

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そうした仕事は人間医師の「聖域」といえます。

その代表は、症例が非常に希少であるがゆえにガイドラインがまだ整備されていない病気に対する治療戦略の立案、あるいはガイドラインが当てはまらない、極めて例外的なケースへの対応です。

医師が対峙する患者さんのなかには、さまざまな理由により、ガイドライン通りの処置が通用しない例が存在します。

AIのディープラーニングはいずれそうした例外的な患者さんへの対処を可能にしていきますが、AIがそこまでに達しないうちは、人間医師がアドリブで対処しなければなりません。

AIが通じない精神科と終末期医療

例として、精神科はガイドライン通りの診療が通用しない典型的な分野でしょう。

精神科が扱う代表的な症例の1つに、悲惨な事故や事件に巻き込まれた人がその鮮明な記憶を時折フラッシュバックのようによみがえらせてしまい、呼吸困難や吐き気などに襲われる心的外傷後ストレス障害(PTSD)があります。

こうした症状への対処法がまとめられた「PTSD治療ガイドライン」も存在しますが、精神疾患の場合、症状の程度にしても治療の効果にしても個人差が非常に大きいため、どの薬を何ミリグラム処方すれば治るなどということは、とても一概にはいえません。

まず医師が患者さんの訴えに傾聴し、その人に合った治療法を手探りで見つけていかなければいけないのです。

症状がまだ現れていない人に対しても、医師が予防的に処置を下すことが望まれるケースもあるでしょう。

自動車で死亡事故を起こしてしまった加害者が、事故を起こした時点では被害者がどのような状態か目撃していなかったにもかかわらず、自分が相手をひき殺す瞬間を繰り返し想像し、さらにはインターネットの事故画像などをわざわざ閲覧するなどして、想像上の「衝撃の場面」を作り上げてしまうことがあります。

その結果、加害者が事故を起こして何年も経ってからフラッシュバックに悩まされるという例が実際にあるのですが、こうした人を予防的に救うとき、ガイドラインもAIも頼りになりません。

医師が本人とのコミュニケーションを通じて察知するしかないのです。

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