医療AI普及でも…「生きのこれる医師」が行う診療のかたち――専門家が指摘するAIが使えない診療科・診療分野2つ

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このような患者さんの置かれている状況を深く理解したうえで、心理面のケアとサポートを行うこと、言い換えれば「寄り添い」の仕事は、何も精神科でだけ必要とされているわけではありません。

たとえば、助かる見込みがない余命数カ月以内と判断された患者さんに対して行う、延命ではなく、QOLの維持を目的とした処置を施す終末期医療(ターミナルケア)の場合、医師使命の多くの部分は、患者さんの身体的、精神的苦痛を緩和し、その人の尊厳を守り、残された時間を穏やかに過ごしてもらうことにあります。

使命を果たすためには、患者さんや家族への適切な情報提供のほか、ときには対等な立場で議論が必要なこともあるでしょう。そうした相手への共感と敬意を基盤とした繊細なコミュニケーションをAIに任せるのは現状では無理です。経験を積んだ人間の医師にしかできません。

ALS患者への「寄り添い」

抗がん剤の選択や、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に代表される難病の神経疾患の治療では、マニュアルを超えた判断を迫られることが多々あります。これも人間医師でなければできません。

ALSを発症すると、脳からの指令が筋肉に伝わらなくなり、手足を思ったように動かせなくなる、舌が動かず呂律(ろれつ)が回らなくなるなどの症状が現れ、やがて歩行や食事、呼吸すら自力では困難になります。

その一方で、視力や聴力、身体の感覚などが失われることはありません。身体の自由を徐々に奪われて、最後には瞬き(まばたき)しかできなくなっても、意識は健康だったころと同じように明瞭であり続けることがALSの特徴なのです。

患者さんにとっては大変な苦痛を伴う病気ですが、発症のメカニズムは未だ完全には解明されていません。多くのケースでは完治させる方法もまだありません。

かつてALSの患者さんは、呼吸筋の萎縮により呼吸不全や肺炎になりやすいことから、診断後の平均寿命は2〜3年といわれていました。

しかし近年は、完治は難しくても進行を遅らせる薬が開発されているほか、人工呼吸器の装着(3割の患者さんがつけるとされています)や経管栄養、胃瘻などを行うことで、命を長らえる傾向にあります。

ところが、延命の方法があることで、患者さんとその家族、医師はむしろ難しい選択を迫られます。

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