朝ドラ≪あんぱん≫戦争を克明に描き「見るのがつらい」「切なすぎ」の声も。「戦時の正義に染まったヒロイン」映す本作の“人気の秘密”は?
千尋は兄との数年ぶりの再会で、心の内をさらけ出す。海軍への志願入隊しか選択肢がなかった社会背景を静かに語り、兄との今生の別れになることを覚悟したうえで、涙ながらに言葉を絞り出す。
「この戦争さえなかったら…。愛する国のために死ぬより、愛する人のために生きたい」
本作には、戦時を生きた人々の魂の叫びがある。
当時を生きた誰にも“それぞれの正義”があった
本作の戦前から戦中パートは、当時の社会情勢に呑み込まれたのぶと嵩が、それぞれ「軍国主義の小学校教師」と「徴兵された反戦学生」という対照的な立場から戦争に向き合う姿を通して、戦争を立体的に描いた。
前述のように、ストーリーも描写もありきたりではなく、踏み込んでいた。そこには、市井の人々の視線から、戦争を忖度なしにそのまま伝える制作陣の覚悟がにじむ。
当時を生きた誰にもそれぞれの理があり、正義がある。いまの価値観からは共感されにくいとしても、それを描かなくては、真に戦争を伝えることにはならない。だから、真正面から当時の人々と真摯に向き合い、丁寧に描く。
視聴者が感じるのは、怒りや悲しみだけではない。人の営みのなかの喜びや憂いもまっすぐに伝わってくるから、そこには自然に人の温もりがこもり、気づけば深く感情移入させられている。
そんなドラマだからこそ、戦争を知らない若い世代から年配層まで、幅広い世代の心をしっかりと掴んでいるのだろう。
豊かな社会になった現代日本では、過去の戦争を身近に感じたり、考えたりすることが少なくなっているかもしれない。そんななか本作は、いまを生きるわれわれに、わずか80年前にこうした時代を生きた先人たちがいることを忘れるな、そこから地続きのいまの日本をどう生きるのか考えてほしい、と伝えている気がする。
終戦80年の年にふさわしい反戦と平和への祈りが込められたドラマだ。
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