朝ドラ≪あんぱん≫戦争を克明に描き「見るのがつらい」「切なすぎ」の声も。「戦時の正義に染まったヒロイン」映す本作の“人気の秘密”は?
一途に戦勝を信じて疑わなかったのぶは、敗戦による終戦から、それまでのすべてが崩れ去る。彼女にとっての正義が覆された。
子どもたちの前に立てなくなって教師を辞め、揺るがぬ正義を求めて新聞記者になり、その後、戦災孤児など弱者を救うために東京で高知出身の政治家の秘書になる。
愛国主義者だった戦中ののぶの姿は、現代の価値観からすれば、国を妄信し戦争を積極的に支えた批判されるべき人物だ。東京で反戦や自由を唱える学生だった嵩を猛烈に叱りつけたのぶに対して、視聴者からは反感や嫌悪の声も上がっていた。
のぶへの“反感”が深い“愛着”へと変わる
のぶは、現代社会の正義と合致する、反戦を声高に唱える市民とは正反対の立場にいた人間だった。
それは当時、決して少数派ではなかったであろう市井の人々の姿でもある。しかし、そんな戦争を肯定する愛国主義のヒロインに、視聴者は戸惑いや苛立ちなど複雑な感情を抱いた。
それが、戦時を生きた人々それぞれの生活や、戦争や国のあり方について考えさせることにつながった。当時の社会に呑み込まれた1人の女性の生き様を通して、戦争を自分ごととして現代人に体感させた。
戦後ののぶには、子どもたちを誤った正義に導いた罪を背負いながら、前を向いて生き抜く覚悟が映る。その姿は、ただ生きることに必死だった、戦時の多くの人たちの人生そのものであることに気づかされる。
そして、戦中の彼女への反感が一転して深い愛着へと変わり、彼女がもがき苦しみながら向き合う人生の再生から目が離せなくなる。
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