世界に蔓延する「殲滅戦」。これに対抗しうる視点は、名著から得られる。「100分de名著」プロデューサーの秋満吉彦氏が解説する。
私がプロデューサーを務めるNHKの教養番組「100分de名著」では、そのミッションの1つに「戦争をなくすこと」を掲げている。
理想論だという声が聞こえてきそうだが、名著を通じてより多くの人が戦争の抑止を考えるようになれば、何かのときに歯止めになるはずだ。名著には、その力がある。
2023年は世界で憎悪の連鎖が拡大した年だった。
ミャンマー内戦、シリア内戦、ウクライナ戦争、イスラエルによるガザ侵攻などの戦争は泥沼化しており、そう簡単には好転しないだろう。今、世界を席巻しているのは「殲滅(せんめつ)の思想」だ。
かつてプロイセンの名参謀、クラウゼヴィッツは「戦争は外交の延長だ」と説いた。戦争は、勝利によって自分たちに有利な講和条約を結ぶための手段であると。
対して、今の戦争は様相を異にする。利害や思想が異なる相手をひとたび敵と認定すれば徹底的に排除し、交渉や妥協の余地がない。敵を根こそぎ滅ぼさないと終わらない戦争だ。この殲滅の思想に対抗しうる原理を打ち立てないことには、この泥沼から脱することは難しいだろう。
完全な悪は存在しない
それを踏まえて、まず推薦したいのがロシアの文豪、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』だ。
この記事は有料会員限定です。
東洋経済オンライン有料会員にご登録頂くと、週刊東洋経済のバックナンバーやオリジナル記事などが読み放題でご利用頂けます。
- 週刊東洋経済のバックナンバー(PDF版)約1,000冊が読み放題
- 東洋経済のオリジナル記事1,000本以上が読み放題
- おすすめ情報をメルマガでお届け
- 限定セミナーにご招待
無料会員登録はこちら
ログインはこちら