「作っても読まれない」分厚い社史が…老舗ワックスメーカー《リンレイ》が、社史をミュージカルにした結果

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加藤さんがリンレイに入社したのは2020年。

「その頃から社史の演劇化を考え始めました。鈴木信也社長には、社史がしたためられた分厚い冊子を作っても熟読することなく本棚に直行してしまいがちだという実感があり、他にいい方法はないかと考えることになったのです。映像を作ってDVD化して配る案も浮かびましたが、一方的なものになるかなと思って」(加藤さん)

リンレイ
演出家の鈴木聡さん(写真左)とリンレイの加藤久幸さん(筆者撮影)

リンレイが目指したのは社員や取引先と経営者との双方向性だった。

「演劇は観客とステージが一体化します。観客の反応によって役者さんもまた演技が変わったり、それでまた観客も感動したり、これは企業活動に近いものがあると考えました」(加藤さん)

リンレイのテレビCMのディレクションや提供ラジオ番組の企画協力とキャスティングを担当している鈴木聡さんは、演劇活動にも定評がある。彼の存在が加藤さんの背中を押した。

「加藤さんから演劇で社史をやらないかと言われて驚いたんですよ」

そう鈴木さんは笑う。

「どうしようかと思ったとき、アメリカには企業ミュージカルというジャンルが存在していることを知り、可能性を感じました」(鈴木さん)

出来上がった台本を見て社長も驚いた

鈴木さんが配信で見た『ブロードウェイとバスタブ』は、企業ミュージカルの熱烈なファンを描いたドキュメンタリー。1950年代から1970年代にかけて、アメリカで企業ミュージカルというものが流行っていたことを伝える映画だ。

「社員や顧客を観客にして企業のスピリットを伝えるという、ある種の企業広報の役割を担う演劇に、ブロードウェイの一流のスタッフが関わっていたそうです。もしこれを日本でやるとしたら、僕ほどうってつけの人間はいないだろうと思いました。なぜなら舞台もやっていますし、広告の仕事では企業広告もずいぶん手掛けてきました。演劇と企業広報を兼ねられるのは僕くらいであろうと(笑)。

社長をはじめ、社員の方から、熱い創業の苦労話や時代の変化の中で体験した苦労など、さまざまな話を聞きました。そのうえでリンレイという会社のスピリットを伝えたいという社長の思いをどうしたら伝えることができるかと考えたとき、社員みんなでひとつの時間を共有し、みんなで笑ったり、感動したりしながら、歴史を体験してもらうことだろうと思いました。これは演劇が一番得意とすることでもあるんです」(鈴木さん)

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