本書のもう1つの特徴は、個々の分野に対立軸を設けるだけでなく、前述の5つの分野がそれぞれ相互に深く関連し合っていることを強く意識して解説している点だ。すでに述べたように、資本主義のあり方(市場を重視するか、政府の介入を許容するか)をめぐる対立が、そのまま政治パートの「保守とリベラル」の対立構造に流れ込む。あるいは、個人主義か集団主義かという社会をめぐる対立軸が、倫理における義務論か功利主義かという対立軸と重ね合わされる。
読者は、一見バラバラに見えるこれらの分野が、実は共通した対立軸にもとづいていることに気づかされるというしかけだ。
広大な知の世界で迷子にならないために
おそらく、この対立軸にもとづいたアプローチを「単純化しすぎている」と思う読者も少なからずいるはずだ。私もその1人だ。
だが、著者にしてみれば乱暴は承知の上ということだろう。原著タイトルをふまえれば、この本は、知的な会話に無縁だった人たち、あるいはこれから知的な会話に加わりたいと思っている人たちに向けて、その「はじめの一歩」を案内することを最大の目的としている。そのために著者が選んだアプローチが「対立軸による整理」である。
その思い切りのよさこそ、本書が大ベストセラーになった大きな要因だろう。自分を振り返ってみても、たとえば「相対主義/絶対主義」(これは『全人類の教養大全2』に登場する)といった対立軸による二分法を知ったとき、世の中の見方がものすごくクリアになったように感じた。たしかにそれは「知的」と感じられた体験だった。
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