「高卒でプータローをやっていたというやつよりも、東大まで出ているのにまともな仕事をしてこなかったやつのほうが絶対にヤバいでしょ。頭はよくても社会性に致命的な問題があると見なされるよね。まぁ、俺は実際そうなんだけどさ。
職場で東大卒ということでいじられるのも嫌だったし、漫画家をやっていたことを知られて著作を批評されるのもうっとうしいと思った。それで、履歴書には地元の高校を卒業して以降の経歴は一切書かなかったんだ」
警備員の業務は、特殊なスキルを必要としない単純作業が多い。その給与水準の低さゆえに警備業界は慢性的な人手不足であり、犯罪歴や破産歴がなく、精神障害や薬物中毒でなければ、大抵の人間は雇ってもらえるのだという。
学歴を意図的に偽ることは「学歴詐称」とされる。通常、学歴詐称は、事実の学歴を「より高く見せる」ために行うものだ。ところが齋藤さんの場合、実際は東大卒であるのに、高卒と偽った。これでは「逆学歴詐称」である。
働きながら病気を治すためになんとしても警備会社に就職したかった齋藤さんにとって、東大卒の肩書は邪魔でしかなかったのだった。
年収230万円で大満足
「施設警備員の仕事って、慣れてしまえばほとんどエネルギーを使わないから、24時間勤務といっても肉体的には楽なんだ。休息時間もきっちり守るから、だいたい2回の勤務で図書館から借りてきた文庫が1冊読める。あと、少人数で回しているから、仕事場で人とあまり会わなくていい。これが、人嫌いの俺にはありがたいね」
「それで、給料はいくらもらえるんですか?」
「今の年収は230万円。そこから税金や保険料が引かれて、手取りは180万円くらいだね」
国税庁の統計によれば、40代前半の日本人男性の平均年収は532万円である(インタビュー時、「平成29年分民間給与実態統計調査」による)。齋藤さんの年収はその半分以下だ。40代前半の一般的な東大卒業生の平均年収とは比べるまでもないだろう。
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