<東大卒→漫画家→警備員>異色の人生を歩む男が「年収230万円の生活」を謳歌――学歴を詐称してまでこの仕事にこだわる理由

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「俺の描く漫画はチビチビと売れるタイプなのはわかっていたんだ。それでも、著書が20冊くらいあってその全部が売れ続けていれば、『チリも積もれば山となる』というやつで、なんとか生活は成り立つと考えていたんだよね。でも、甘かった。絶版になったらチリも積もらない」

出版に携わる人なら思い知っているだろうが、本というものは驚くほど売れない。たとえ内容がよくても売れない。

「その時々の編集者に依頼されるまま、あちこちの出版社でいろいろなジャンルの本を描き散らして、それで人生を浪費してしまったよ。今にして思えば、1つの分野に集中して本を出すべきだったんだよな。つまり、石ノ森先生の『マンガ日本の歴史』のようなシリーズものだね。シリーズ作家として自らのブランディングができていたら、出した本が早々に絶版になることもなかったと思う。

東大受験とその後の教養(前期)課程でいろいろな学問を広く浅く修めて、なまじ器用だったことが裏目に出たね。でも、そういうことがわかるのって、物書きを何年もやってからなんだよ」

齋藤さんが学習漫画家をやっていた期間の仕事量は年に2冊。朝から晩まで机に向かって漫画を描き続け、年間の平均的な印税額は150万円ほどだったという。そこから源泉徴収されて、さらに画材代やアシスタント代といった経費を差し引くと、実質的な収入はわずか120万円ほどだった。

逆学歴詐称で警備員に

30代も後半に差しかかるころ、齋藤さんは大きなトラブルに見舞われた。突然、首から背中にかけての激しい痛みと腕の痺れに襲われたのだ。

診断の結果は、頸椎椎間板ヘルニア。体質も一因ではあるが、終日、安物の椅子に座り、机にかじりついて漫画を描く生活を続けていたことがよくなかったらしい。

首の痛みと腕の痺れは日増しに悪化し、ほどなくして齋藤さんは集中して絵を描くことができなくなった。医療費もバカにならず、漫画家を続けることは不可能だと悟った齋藤さんは、漫画家を休業して別の仕事に就くことを決意したという。

「駅に置いてある求人情報誌で、社会保険の適用があって、俺みたいにアラフォーにしてまともな職歴がなくても雇ってくれそうな仕事を探したよ。そうやって見つけたのが、警備員だったんだよね」

その面接にあたって、齋藤さんは生まれて初めて履歴書を書いた。特筆すべきは、そこで学歴を「高卒」と偽ったことだ。

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