<東大卒→漫画家→警備員>異色の人生を歩む男が「年収230万円の生活」を謳歌――学歴を詐称してまでこの仕事にこだわる理由

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「俺が歴史学に興味をもって歴史文化学科に進学したのは、高校生のときに石ノ森章太郎先生の『マンガ日本の歴史』を読んだからなんだ。

その1巻の巻末だったかな。石ノ森先生が『あらゆる事象を表現できて無限大の可能性を持つメディアが「萬画」だ』って書いていて、そうだよな、と得心したんだよ。たしかに、絵があれば情報は伝わりやすいじゃない。だから、俺も絵の表現力を使って人にものを伝えようと思ってさ」

齋藤さんはこれまでに、歴史学、政治学、物理学、生物学……と、実に多岐にわたる分野の学習漫画を描いてきたという。その守備範囲の広さは、幅広い教科・科目を偏りなく勉強しなくてはならない東大受験で培われたものだ。

「文学部の卒業研究で、『調べて書く』という訓練をみっちりさせられたことも、大きいだろうね」と齋藤さんは語る。

驚くべきことに、齋藤さんは絵のスキルを東大卒業後に独学で磨いたという。その練習方法は実にユニークだ。彼は東大の図書館から大量の歴史資料集を借り、それらに掲載されている宗教絵画を片っ端から模写したのだそうだ。

「漫画家志望者の大半は、好きな漫画やアニメの絵の模写から入るらしいけど、そんな練習で描けるようになるのは、手本にした漫画やアニメの劣化コピーにすぎないよね。

どうせ同じだけ手を動かすなら、歴史がその価値を認めたような名画を模写するべきだと思うな。上等な絵を手本にするだけで、そこいらの漫画家よりもよっぽどいい絵が描けるようになるものだよ。

大学を卒業して学習漫画でも描いてみようと思い立ってから、そういう絵の練習を1日10時間、1年間続けたんだ。それくらいやれば、よほど不器用な人間でもないかぎり、美しい線を引けるようになると思うよ」

「美しい線を引く」という言葉が印象的だった。

年間印税150万円の漫画家

1年間の特訓で「美しい線」は引けるようになった。出版社に作品のサンプルを持ち込むと、すぐに企画を任されるようにもなった。しかし、「学習漫画を主戦場としたのが失敗だった」と齋藤さんは過去を振り返る。

一般的に「学習漫画」というジャンルは、それこそ石ノ森章太郎のような巨匠が手掛けたものでないかぎり、絵が達者というだけで万人に買われるようなものではない。齋藤さんの作品はいずれも初版どまりか、重版がかかっても累計で数万部程度の売れ行きだったという。

ページごとに原稿料が出る連載ならともかく、印税払いの描き下ろし漫画家が、その程度の刷り部数で食べていくのは難しい。

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