<東大卒→漫画家→警備員>異色の人生を歩む男が「年収230万円の生活」を謳歌――学歴を詐称してまでこの仕事にこだわる理由

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最低賃金とほとんど変わらない給与水準だが、それでも「収入は安定しているから、漫画家をやっていたころよりも精神的にはずっと楽だね」と齋藤さんは語る。

頭のよさが目立ってしまう職場

齋藤さんの唯一の苦労は、職場で目立たないようにすることだという。世間的にブラックとされている仕事なだけに、「警備の現場にはそれなりにポンコツな人間が集まっている」らしい。そんな中で、やはり東大を卒業した頭脳は突出しており、事あるごとに頭のよさが目立ってしまうのだそうだ。

例えば、「自衛消防技術」という施設警備員が持っておくべき資格の認定試験を受験したときのこと。齋藤さんにしてみれば簡単な筆記と実技の試験だったが、一緒に受験した同僚の半数は不合格になったという。

「そんな試験に、入社したばかりで経験も浅い俺がストレートで受かったものだから、上司から『齋藤くん、君、優秀な人でしょ』って言われてさ。高卒だと偽って入ってきているから、バレたらどうなることかとひやひやしたよ」

また、駅地下街の勤務者を対象に、業務知識やフロア・近隣施設の情報などを問う、100問形式のインナープロモーション試験が実施された際にも、齋藤さんはそれなりの苦労をしていた。

駅地下街全体で数百人、齋藤さんの職場からも10人ほどが受験した試験。齋藤さんはその試験中、自分が満点を取ってしまうことを確信したという。

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「満点を取るとみんなの前で表彰されると聞いていたから、わざと3問を誤答して97点にしておいたんだ。自衛消防技術試験のときの失敗を生かしたつもりだったけど、それでも職場ではダントツでさ。やっぱり同僚がざわついて、焦ったね」

苦労の内容が世間一般とはズレているように思うが、東大卒の学歴がバレないように本人は必死なのだ。バレたっていいとは思うけれど……。

「漫画を描いていたころは、朝から晩まで生活費のことで頭がいっぱいだったんだけど、警備員の仕事を始めてからはその手の悩みがまったくないんだよ。万が一にも失業したくないから、慎重に立ち回らないと。

それにしても、駒場寮時代(第1回を参照)にバリケードを挟んでにらみあっていた警備員に自分がなったと思うと、なんだか面白いよね。当時、彼らも大変だったんだろうね。俺も社会に出て、人の気持ちが少しはわかるようになったよ」

池田 渓 書籍ライター

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いけだ けい / Kei Ikeda

1982年兵庫県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程中退。フリーランスの書籍ライター。共同事務所「スタジオ大四畳半」在籍。

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