どこの会社も"パーパス"ばかり… 多くの日本企業が陥っている「パナソニック病」の正体
個人、組織の暗黙知から、組織の形式知が形成され、それを表現しているのがパーパス(企業の存在意義)。その表現がお粗末では、馬の耳に念仏、仏作って魂入れず、である。
電卓の普及で暗算ができなくなり、PCの普及で漢字を忘れてしまったように、AIの活用が仕事を省力化するかもしれないが、人間の表現力、ひいては思考力を劣化させるリスクが懸念される。何を体験しても「すごい」「やばい」、何を聞いても「大丈夫ですか」、返答も「大丈夫です」。
すでに、Z世代どころかシニアに至るまで、日本語の使い方に工夫、いや、話芸、文芸がなくなってきている。パナソニックHDにもこうした現象が社内で生じているのではないか。
AI時代にこそ再考すべき問題
「何をやっているのかわからない会社」ではなく、「なぜ儲かっているのかわからない会社」と言われるようになれば、「競争好き」の企業行動から脱することができる。こう言えば、前述した表現論と矛盾しているように聞こえるかもしれない。
見えざる技を築くのはビジネスモデルの深層領域に関する課題であり、表層のビジネスモデルや組織名はわかりやすいに越したことはない。わけのわからないパーパスを設定するよりも、もっとわかりやすい「会社説明」を行ってほしい。
楠見氏は「5%くらいの利益を出したら、すぐに固定費(販売費及び一般管理費)を増やすことを繰り返している」と指摘する。ソニーグループや日立製作所と比べてみても、パナソニックHDの販管費率(2023年度)は24.8%と約6%も高く、2024年度も含めて10年間、ほとんど変わっていない。
表現力という無形資産を向上させるのに、コストはさほどかからない。大手広告代理店出身で有名各社を渡り歩いた「プロフェッショナル(?)」をスカウトしたからといって、変わるものではない。
AIの仕事となるデータドリブンの分析を売り物にするプレゼン上手な「できそうな人(できる人ではない)」は数年すれば、パナソニックHDを踏み台にして辞めていく。大手広告代理店とツーカーの関係になり、巨額の販売促進費を投じて大々的な販促活動を展開する、かつての「宣伝の松下」の発想は通じなくなっている。
「企業の表現」とは、経営トップの言葉をはじめとして、従業員全員の言語センスを意味している。言語センス=論理性ではない。論理性は経営に不可欠だが、それだけでは顧客、従業員、株主、取引先などの心に響かない。AI台頭の時代だからこそ、再考しなくてはならない課題だ。
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