ゴーガンとジョブズに共通する現実歪曲。熱狂をもたらす「内的必然性」とは?

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ゴーガンは、安定した証券マンとしての生活を捨てアーティストとして生きることを選びました。経済恐慌と貧困、病、身内の死など次々と災難が襲いかかりますが、失意の中でも描くことをやめず、タヒチという「原始的な楽園」へ向かってその地で生み出された傑作が同作品です。「最後の作品」と位置づけ、生命のすべてを投じて描き上げました。

ゴーガンの絵に現れる“3つの内的必然性”

この絵には、3つの内的必然性がはっきりと現れています。

・個人的必然性:言わずもがな「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」という死を意識したゴーガン自身の問いが含まれています。
・時代的必然性:近代化の波が押し寄せる前のタヒチの風土や伝統を絵の中に保存したいという使命感がうかがえます。
・系譜的必然性:古典芸術へのオマージュがありつつも、西洋絵画に原始的で民族的な伝統を融合するという彼独自の革新的なスタイルを確立しています。

これら内的必然性の宿る彼の熱狂は、作品という形に昇華され、その過程で、「クロワゾニスム」を生み出します。クロワゾニスムとは、暗く太い輪郭線で画面の構成要素を区切り、その内部を大胆な平塗りで表現する彼独自の感覚です。単なる技法ではなく、ゴーガンの内的必然性から生まれた「表現の必然」とも言うべき「感覚」でした。

内的世界と原始的なタヒチの情景を融合させることで、写実を超えて、自らの精神性をより純度高く表現しようとした。より本質的な真実を探究した意味では、絵画の中で現実歪曲フィールドを表現し、観る者を巻き込んだと捉えることもできます。

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