ウェルビーイングは、ご存じの方も多いと思うが、well(よい)とbeing(状態)で「身体的にも精神的にも社会的にも、心地よい状態」ということ。
人それぞれ「いい状態だな」という感じ方は違うが、例えば好きな時に気の合う友達とゴルフができて気持ちがいいとか、本に囲まれて生活できるのが最高という人もいるかもしれない。さまざまな心地よさの中で、今の社会で一番気になっているのは心と身体の「健康」ではないだろうか。
ステップゴルフは2012年創業以来、インドア練習場で主に初心者に向けたスクールを行い、新規ゴルファー100万人創出を目指していることは以前、このコラムでも紹介した。

2025年3月末時点で都市部を中心に全国130店舗となり、累計会員数(ゴルフを体験した人)は8万9754人。榎本ステップゴルフ社長は「我々が考えるウェルビーイングとは、ゴルファーだけでなく、スポーツを通じて健康寿命を延伸する人々を増やすというところにあると思っています」といい、鎌浦CX社長の考えと一致する。
「街中でスイングを整える」場所に
では実際の協業というのは、インドア練習場と書店が1つの店舗に併設されるようなイメージだろうか?
聞けば、鎌浦CX社長は「その通りで、それに向けての協業になります。TSUTAYAは体験型書店として、ライフスタイルの提案になるきっかけのような場所と考えています。
趣味の雑誌を手に取ったときにそれを学べる場所があるといいよねということで、TSUTAYAコンディショニングというフィットネス業態の店舗も始めています。
体を整えるという習慣を考えたときに、ゴルフも本屋に通うような感覚で、街中でスイングを整える、というようになるといいんじゃないかと」と答えた。
一方の榎本ステップゴルフ社長も「とってつけたような話ではなくて、ずっとイメージをしていた1つ、大きな1つなんです。書店を見させてもらったときに、天井が高い所が結構多かった。私たちの本社は以前、神田小川町にあったので、周辺の書店の街をいつも眺めながら(協業を)イメージしていたんです」と振り返る。
しかし、まったく違う業種、違う店舗の形の中で、協業の「箱づくり」は簡単ではなさそうだ。
「実は」と鎌浦CX社長は切り出し、「(自社の)アンケートで健康に関心がある人が80%以上いたので、1階にインドアゴルフ練習場、2階にフィットネスジムがあるTSUTAYAコンディショニングを1店舗だけ作ったことがあります」と前例を教えてくれた。
だが「利用しやすい料金で機械を入れたら勝手に来てくれるのではと思ったんですが、機械があっても使い方をコーチに教えてもらわないとうまく使えない。失敗しました。そういう意味では、コーチの採用から育成をしてノウハウのあるステップゴルフさん(との協業)は魅力があると思いました」という。

榎本ステップゴルフ社長も「実は」といい、「TSUTAYAさんのフィットネスジムは見ているんです。フィットネスをしながら、そこに本がある、バイクをこぎながら本を読む。そういう姿を見ていて、ゴルフも選択肢に入れてもらえないかと思っていたんです」と応じた。
それぞれに抱える課題を解決するために
互いに「形」は見えていたようだ。異業種とはいえ、相手を意識していたのは、時代の変化の中で双方とも厳しい問題を抱えている現実もあるからだろうか。
ゴルフ界では、このコラムで何度か紹介している「2025年問題」がある。日本の人口比、ゴルフ人口比で多くを占めている団塊の世代が75歳の後期高齢者となり、ゴルフからのリタイアなどが懸念され、今年がその問題の年にあたる。
最近のゴルフ人口は各種調査を見ても500万人台と最盛期の半分以下になっており、さらに減少となるとゴルフ産業が影響を受ける。
「健康寿命を延ばして高齢者のリタイア防止」「若年層の新規ゴルファーの開拓」という2本柱の対策が俎上に上るが、どこかが、だれかが音頭を取っているわけではなく、具体的にどうするか、どうしているかは不透明な状態だ。
書店をめぐる環境も悪化している。いわゆる活字離れもあって、書店の数も年々減少している。公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所のデータによると、この20年で書店数はほぼ半減し2023年で1万店余となっている。
トップチェーンのTSUTAYAは現在約750店舗だが、47都道府県にあるのは強みで、全国展開を模索しているステップゴルフにとっては絶好のパートナーとなりうる。
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