「やっぱり生涯現役がいい」、引退宣言を3日で撤回した《87歳のバッグ職人》。娘は「仕事を取り上げたらあかん」と実感するが葛藤の日々

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「G3sewing」の商品
看板商品である椿柄の「がま口バッグ」(写真左)を中心に、トートバッグやポーチなどさまざまな裁縫作品を丹精込めてハンドメイドしている(写真:筆者撮影)
年金3万で大病続き。うつ病を併発し、自殺未遂をするほど苦しんでいた、元電気工事士の斉藤勝さんがミシンと出会い、かつての職人魂を取り戻したのは82歳のとき。
2020年、三重県四日市市にある自宅で家族の協力のもとスタートした「G3sewing(じーさんソーイング)」がTwitter(現X)で反響を呼び、看板商品である「がま口バッグ」の注文が全国から殺到。その奇跡の物語は、前編に記した。
87歳になった今もがま口バッグの製作に励む斉藤さんだが、持病や年齢なりの衰えから、一時は引退を決意したことも。そんな父をそばで支えてきた三女・畑中千里さん(「G3sewing」代表)に、老親とともに働くうえでの苦労や葛藤、心がけていることを聞いた。
【前編】「死にたい」から一転、苦労続きの老人が得た希望

「もう無理や…」急に弱音を吐いた父

2020年、82歳で「G3sewing」をスタートして以来、大病を抱えながらも一心不乱に「がま口バッグ」を作り続けてきた斉藤勝さん。一人でも多くのお客さんに商品を届けようと、ひと月に100個など目標数を決め、精力的に製作を続けてきた。

ところが、4年が経った2024年の9月。斉藤さんは、「G3sewing」の代表でもある、三女の千里さんにこう打ち明けた。

「体もしんどくなってきたし、メインでやっていくのはもう無理や。急に明日から作れないってなったら、お前も困るやろ。だから、今まだやれるうちに言っておきたかったんや」

引退をほのめかす発言に、千里さんは「自分からしんどい、無理やと言わない父が初めて弱音を漏らしたので、これは相当なことやと思いました」と述懐する。

とはいえ、いきなりすべての仕事から撤退するのは、がま口バッグ作りを生きがいとしている斉藤さんの生きる気力を奪いかねない。さらには、“斉藤さんが作る”商品に価値を感じて購入してくれるお客さんがいることを考えると、突然の引退は存続の危機につながる可能性もある。

斉藤さん
斉藤勝さん/1937年生まれ。三重県四日市市在住。ラジオ・テレビの修理技術者や電気工事士として働いていたが、事業がうまく行かず苦労の日々を送る。60代では大病を患い、うつ病や糖尿病でほぼ寝たきりの生活に。2019年、82歳の時に娘のミシン修理をきっかけに裁縫に目覚め、バッグや財布などの製作をスタート。「G3sewing(じーさんソーイング)」のブランド名で商品を販売するようになり、2020年、家族によるSNS投稿が反響を呼び人気に火がついた。著書に『あちこちガタが来てるけど 心は元気! 80代で見つけた 生きる幸せ』(KADOKAWA)がある(写真:筆者撮影)
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