「やっぱり生涯現役がいい」、引退宣言を3日で撤回した《87歳のバッグ職人》。娘は「仕事を取り上げたらあかん」と実感するが葛藤の日々

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一方、80代の老親とともに働くことは、常に様子を見ていられる安心感もあるが、「気苦労も多い」と千里さん。

耳の遠い斉藤さんにちゃんと聞こえるようにと、何度も大きな声で話しかけるせいか、本人にも周囲にも“怒っていないのに怒っている”ように聞こえてしまう……。

また、最近増えてきた母・陽子さんの物忘れから来る仕事のミスに、ついついキツい口調で注意してしまい、後から罪悪感にかられることもある。

父母には老いや病気とうまく付き合いながらも、できるだけ長く「G3sewing」を続けてほしい。だからこそ、日々の介助や健康管理にも力が入る。

だが、介護の仕事をしてきた長女の法子さんからは、「何でもやってあげずに、本人にできるだけやってもらうことが大事」だと常々、念を押されているそう。

以前、こんなことがあった。斉藤さんが仕事の合間にすぐ休めるように、ソファを購入したが、思いのほか座面が低く、一度座ると立ち上がるのに苦労していた。本人が毎回、「しんどい、しんどい」と漏らすので、ソファの脚を高くする器具を追加で買おうとしたところ、法子さんが一喝。

「しゃがんだり、立ったりして腹筋や太ももの筋肉を使うからいいんじゃないの! 筋肉を使わないと、どんどん衰えていくよ」と、忠告されたという。

「そのとき初めて、できることは奪ってはあかんのや、と気づきました。時間がかかっても、親から文句言われても気にせずに、自分の力を使ってもらうことが結局、本人のためにも、介助する自分たちのためにもなるんですよね」

一日、座り仕事でほぼ動かない父母にできるだけ歩いてもらおうと、散歩を提案したこともある。だが、斉藤さんは「用事もないのに、なんで散歩しないとあかんのか」と気が進まない様子。そこで、こうお願いしてみた。

「読み終わった新聞をお姉ちゃんの家に届けてくれへん? お姉ちゃん、新聞とってないんやけど、読みたいんだって。うちのゴミも減るし、散歩もできるし、一石三鳥やん」

法子さんの家は、斉藤さんの家から数分の場所にある。そのため、ちょうどいい散歩になると思ったのだ。「なら、ええよ」と、斉藤さんも了承し、新聞を届ける役目を負うことに。

子の頼みとあれば断れない。そういう親の性格を巧みに活かしながら、なんとか動いてもらう努力もしてきた。

「働けるデイサービス」という新たな夢

「子育てが終わったと思ったら、今度は高齢の親の世話や介護……。子世代の私たちこそ、ケアが必要だと感じる今日この頃です。

幸い、私の周りには同じように親の世話や介護をしている友達も多く、日々の苦労や本音を語り合える友達が4人いて、とても助かっています。父母についついキツい言い方をして悔やんだり、罪悪感をおぼえたりする気持ちにもすごく共感してくれるので、いつも慰められていますね。

G3sewing
「G3sewing」のXは2025年4月現在、5万9000人ものフォロワーがいる(画像:X(@G3sewing)より)
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