その理由は、顧客の声にある。「豚汁定食で1000円近いのか」という批判的な声が絶えない。しかし、興味深いことに、この価格感は地域によって大きく異なる。郊外では「高い。しかも豚汁でしょ」と言われる一方、大手町のようなオフィス街では「安い」と評価されるのだ。
中島社長は、この価格感の差は「豚汁」という料理に対する根本的な認識の違いだと説明する。中年男性をはじめとする多くの人は、豚汁を食事の脇役、いわば「サブキャラ」としか見ていない。
一方、ごちとんが目指すのは、「野菜を食べるためのおかず」、さらには「温かいサラダ」としての豚汁なのだ。

確かに、ごちとんの豚汁は6種類以上の野菜を含み、サラダと同等の栄養がある。それが故に、中年男性からは「ボリュームが足りない」と批判されることもあるそうだ。皮肉なことに、健康への意識が高いはずの中年層が、この新しい豚汁の価値をまだ理解できていないのだ。
しかし、ごちとんがベンチマークするのは、サラダ専門店やヘルシーカフェ。1000円を超えるメニューを抵抗なく食べられる客が集まる、健康特化型の業態である。「それらと同じ価値を認めてもらえて、『これならば安い』といってもらえるところまで、ブランドを持っていくのが自分の役割」と決意を明かした。
そのためには、健康的な魅力をどう高めていくかがカギとなる。ほかでは食べれない、おいしくヘルシーな豚汁を、どう開発していくのかを日夜考えている。

現在の業績と今後の展望
2025年3月現在、ごちとんの業績は上向きだ。冒頭でも触れたとおり、平均月商は昨年比150%に。新型コロナによる打撃を受けて控えていた出店も再開している。
現在の客単価は1020円。一番安い定食は790円のままだが、なにかしらのオプションを付けてくれる人が増えたため、上がってきたそうだ。特に人気なのは「たまごかけごはん」で、約16%の客が注文するという。種類も豊富で、おかか入りの140円からサーモンユッケを乗せた330円まで、6種類を用意。330円のサーモンユッケは「冒険」と思われたが、予想を3倍上回る売れ行きだ。

「高くても食べたいものを並べれば、お客様は気分に合わせて買ってくれるのだと知りました」と中島社長はしみじみいう。訪れるたび、たまごかけごはんを変えたり、豚汁を変えたりと、カスタマイズして楽しまれている。カスタマイズには、テーブルに設置したあげ玉、すりごま、しち味などの「味変用調味料」も活躍しているそうだ。その楽しさも、業績アップにつながっていると確信している。

無料会員登録はこちら
ログインはこちら